【Memorandum】正体不明のシロカブトの例

 友人達から時折データの事で問い合わせが来る事がある。昔に集めた他者採集品のコレクション群の中に、違和感があるものが見つかる事がある。或いは転売系商売人から妙な売りのオファーの話を聞く場合など。ヒルスシロカブト系グループでも其れがあった時の事、色々ややこしい話があると話題になった。

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 問い合わせの個体群とは無関係だが、これまで調べていたなか1オス特異的な発生形態の個体があった事を思い出した。産地は公表しないが、ある形態について他の産地では全く見られない型だった。

f:id:iVene:20230816231435j:image(とある部位が特徴的な野外採集個体)

 "1オスだけ"というのも理解に説得力が欠けるため、iNaturalistで採集データに近いエリアを調べてみると、ごく少数ながら似た型の記録があった。

 ただ其れでも此の程度の差異では、地理的隔離も不明瞭ゆえ地域変異か奇形の可能性が高い。しかしそういった考察を可能にしてくれる面白い個体とは考えられる。

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 ヒルスシロカブト系というと、産地により傾向が異なったり、幼虫期間の長さで成虫の身体付きが変わる等の話が色々あった。

 野外個体群についても、プエブラ周辺のベラクルス州オアハカ等の代表的産地から、シナロアやモンテモレロス辺りの個体群まで面白い話はよく耳にした。実物も中米中のものを集めた。ただ、分類をするにしてもやはりデータが正確でなければ考察も正確にはなりにくい。

https://science.mnhn.fr/institution/mnhn/collection/ec/item/ec4067?lang=en_US

ヒルスシロカブトのNeotypeは所蔵博物館によりオンラインで公開されてある)

 昆虫業界黄金期の頃、世界中の愛好家が原産地に赴き採集に行っていた。其の勢いで出没した"現地で元締めをする商売人"が各地から虫を集め、雑な管理で世界中のコレクターに売り捌くという事も時折問題になった。

 "ヒルスシロカブト"は高額売買が盛んに行われたため、雑に商売道具にした人間は其の頃には自称"研究者"から何まで沢山いた。だからただ最もらしいデータラベルが付いていても、疑念が晴れないという事が多い。業界黄金期の頃に流行った種群で、こういうデータのしんどい話が付きやすいのは意識的問題が原因と考えられてきている。

https://x.com/ptpak55zoom/status/1690643296312492032?s=46&t=6MVYq5Ovmu_MXJ16l5mXpw

https://x.com/himasoraakane/status/1690285213153427456?s=46&t=6MVYq5Ovmu_MXJ16l5mXpw

 データはラベルが綺麗だとか、本物っぽいだとかではなく、真実が書かれたものでなければ正確な考察には使い物にならない。だから入手ルートが採集過程から疑念の無いものに絞った使われ方が推奨される。

https://osakamental.com/symptoms/sagishi-shokogun.html

 しかしヒルスシロカブト系について、採集過程まで追跡出来るような良い個体群というのは、正直どれがどうなのか売り物の中から真偽を見極めるのは至難と考える。

 つまり違和感を覚えるような個体群を見つけてしまう例などは特段珍しい話ではなく、誰の収集物の中にも"真偽不明"とせざるを得ないようなものは幾つかある。標本商の友人は、こういう"データ問題"について永遠の課題と語られる。

 対策としては"分からないものは転売屋からは買わない"が最良と考えられる。

https://www.kaitkyowakoku.online/no-twitter/

 こういうグループの場合"調べ直す"という事をするならば、中途半端な古い個体群だとか採集者以外の転売屋等から買い集める方法というのは全く使えたものではない。"中米じゅうを練り歩いて採集して、其れで調べないと本当の事は分からない"なんて、標本商の友人と話す。今の時代にこれをやろうとすると、10年や20年では足りないかもしれない。ただ、良いデータを集めるには其れなりに見合ったコストが要るという事。