【Memorandum】Odontolabis属不明種個体の議論

 仏国の通販サイトで"O. leuthneri"として売られていた虫個体があった。しかしなんだか妙な雰囲気の見た目をしていた事と即決2千円くらいと安価だったので発注してみる事にした。

f:id:iVene:20231122203006j:image(不明種♂個体は体長54.9mm。見慣れない雰囲気)

 実物が届くと、やはりOdontolabis leuthneri Boileau, 1897:リュートネルツヤクワガタとは異なる雰囲気がある。エリトラは黒いが光沢が強く頭部と前胸背は点刻が粗い。

f:id:iVene:20231123073355j:image(基部内歯は普遍的なO. leuthneriと比べて基部寄り。頭部と前胸背の点刻も比較的はっきりと粗い)

 準大歯の型で大顎基部突起の出方もなんだか特異的な雰囲気。産地は"インドネシア・ボルネオ北部クロッカー山脈"で2004年の採集なのだそうだ。データの問題をクリアしきれない個体だったが見慣れない型をしているため考察を続けてみる。

f:id:iVene:20231123074204j:imageインドネシアボルネオ島北部に分布するO. leuthneriは普通種としてよく知られる)

 O. leuthneriに酷似する別の分類群が幾つかあり、もしかすると其れなのかもしれない。分類屋の友人に聞いてみると、やはり其の可能性が高いという話だった。"Odontolabis datukpauli Schenk, 2002"や"Odontolabis benmartinii Schenk, 2012"。

https://fanblogs.jp/anotherstagbeetlesofworld/archive/378/0

 しかし其れ等についても過去に分類屋の友人から"Odontolabis brunneus Nagel,1926のシノニムかもしれない"という話を教えてもらっていた。情報源は以下のblog記事主だそうだった。なるほど記事中では大幅なフェーズスキップ的手法が気になるが外形分類で一つにまとめられている。

https://fanblogs.jp/anotherstagbeetlesofworld/archive/569/0

 ただ其れだとしても黒化型で準大歯以上の♂というのは今回の個体が初めて見知る感じになる。

 以前まで私自身は長らく実物の入手を出来ておらず、また満足な観察も出来ていなかったため、O. leuthneriとの関係が別種であるのか別亜種なのか、はたまた単なる変異なのか確定させられなかった。図を見ても大変よく似る。

 "O. datukpauli"は"クロッカー山脈南方"を、"O. benmartinii"は"クロッカー山脈"、"O. brunneus"は"サラワク・ムルド山 6500フィート"が基産地とされる。此の地方一帯は特殊な生物層がクワガタムシ科群からも見られ、種層が共通していそうな地理的範囲がある感じもする。

 しかしサラワクの近い場所からはO. leuthneriの外形に一致する個体がiNaturalistで記録される。という事は"地域変異"という可能性も出てくるが、どうなのか(詳しい棲み分けが不明瞭ゆえに結果を確定させるには不十分)。

http://www.inaturalist.org/observations/50921405

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 今回の不明個体に似たものとして、分類屋の友人がエリトラが赤褐色型のものと黒化型を含んだ数頭のボルネオ北部シピタン産の短歯型♂および♀を持たれていたので、今回の準大歯型♂個体を持ち寄り比較観察させていただいた。なるほど外形は大顎以外でよく似る。

 中脚ケイ節の体毛にも少々特徴があるようにも見えた。ツヤクワガタ属の交尾器形態は変異が幅広く判別が困難な種が多いが、O. leuthneriとは比率に差異がある感じの観察結果が得られた。現状では一致するものが見られない。

 分布状況については確たる記録が殆ど無く、観察個体数が少ないため議論の余地が広く残される。現状では交尾器形態から"別種関係の可能性がある"との理解に留めた。

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 "O. brunneus"の原記載では体長63mm程度(大顎以外47.5mm、大顎16mm)の1♂個体を元にO. leuthneriの型として記載され、スケッチが示されるものの記述中判別法については"エリトラが濃い栗色"などが説明される。1926年の原記載では「タイプ個体はSarawak Museumにある」とされる。今後の観察法次第では分類が解るかもしれない。原産国での研究進展に期待したい。

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(「Nagel, P., 1926. On a collection of stag beetles from Sarawak: Sarawak Museum Journal (1927) 3:293-302」より引用。顎形態の描写では鋸歯状内歯列の状態が特異的で、記述中でも「大顎は半円形で、基部付近の内縁にとても小さな突起として少し肥厚がある。内縁は中央から先端にかけて7〜8個の小歯で鋸歯状になり...」と説明される。原記載の説明だと確かに"O. brunneus"は、"O. datukpauli"・"O. benmartinii"と近い)

【References】

Boileau, H., 1897. Description d’un Lucanide nouveau. Le Naturaliste 11:247-248.

Nagel, P., 1926. On a collection of stag beetles from Sarawak: Sarawak Museum Journal (1927) 3:293-302

Nagel, P., 1928. Neues über Hirschkäfer (Part II - Fortsetzung und Schluss). Entomologische Blätter 24(1):1-5.

Schenk, K. D., 2002. Beitrag zur Kenntnis der Hirschkäfer Asiens. Facetta 21:4-16.

Schenk, K. D., 2012. Taxonomical notes to the family Lucanidae. Beetles World 6:9-15.

Fujita, H., 2010. The lucanid beetles of the world Mushi-sha’s Iconographic series of Insect 6.472pp., 248pls. Mushi-sha, Tokyo.

【追記】

 科学的再現性が客観的にどう評価されているか、一般的には曖昧で分からないという人達が多い。

 一般庶民にとって、疑似科学と科学の判別が困難な領域は確かに存在していて、其れが元で疑似科学を"科学"と取り違えて失敗し"科学を嫌うようになる"人達もいる。学術業界がルイセンコ学説を長らく支持するような時代があった手痛い"黒歴史"を考えれば無理もない話ではあるが。。

 今に近い話だと、例えばノーベル賞が権威的で信頼を集めているから、権威的な政治活動をしている人達の話は信頼性があると誤解されがちな状況が見られる。"ノーベル賞の権威性"は研究結果そのものに信頼性があるというものだが、マスメディア等では受賞者達の人間性や生い立ちばかり報道する政治的光景がよく見られる(対人論証的なミスリードと考えられる)。

 件のSTAP事件などは情緒的な人達が存在性を支持するという事もあった。"STAP細胞"研究の責任者らが何だか可哀想な感じになってしまっていたからというのもあるかもしれない。

 しかし情緒的な考えで疑似科学や研究不正の続行を正当化され、更には巨額の税金を予算に投入し続けるのかというと其れは"国民に対しての裏切り行為"と言わなくてはならない状況にもなる。

https://x.com/norinori1968/status/1724750417131958678?s=46&t=6MVYq5Ovmu_MXJ16l5mXpw

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 "疑似相関と因果関係を勘違いしやすい事を注意すべし"という注意喚起も生物科学分野だと一般化しつつあるが、"そう注意して考える理由と其の主張の軸"が分かっていないままの事が多い。一般的に飛び交う生物学的な話は他者の受売りや見様見真似であるため、雑多な注意喚起の中にも骨組みが無い場合がたくさんありうる。一般庶民にとって、調べるには高額な機器や薬品を要する"分子レベルの生物現象に関連する話"について真偽を考える事は大変荷が重い。

 例えば"ネアンデルタール人とヒトの間には遺伝子上に種の隔離がある"みたいな論文が各所から多数出て其の風説が一時的に支配的な世の中になっても、ノーベル賞を受賞する研究に"交雑して複数世代累代した結果が現代人の遺伝子を証拠として何度でも見られる"とひっくり返され否定される歴史が残る事になった。

 "STAP細胞"の有無は時間をかけて"無い"という評価が一般的になり、一方でiPS細胞の汎用性に対しては長らく疑念を持たれない。この分水嶺が何処にあるのかというと、科学的とはいえ哲学的な考え方で見出される。数学的な、統計学的な手法として"無限回数の試行"で確率が集中する結果の値が信頼性を帯びるという評価法(同じ方法を何度も試して同じ結果にどう確率が集約するかどうか)。

https://bellcurve.jp/statistics/course/8539.html

https://www.aje.com/jp/arc/why-is-replication-in-research-important/

 再現性評価について、試行法が不純であれば、純粋な試行法で得られた結果と数値がズレる事が多々ある。科学実験のつもりが無い試行なら大して問題ではないが、其れで原著論文を書こうとする行為は疑似科学どころか反科学に近い事になりうる。其のため実験科学では個々の実験で"手順の順序が持つ意味"が重視される。

https://synodos.jp/opinion/science/13786/

 STAP事件で芋づる式に見つかった不正な疑似科学群は、利益相反のある手法を取り入れた。しかし権威的な看板に守られ、STAP細胞同様に分子レベルであまり観察されないミクロな生物現象であったため科学者らの間でも気づかれない事が多かった。だから社会問題になってから一挙して貯まっていた不正が浮き彫りになった形となった。

https://president.jp/articles/amp/12470?page=1

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 疑似科学で商売をする団体は、転売屋集団、カルト宗教や昨今流行りの"ポリコレ"等でもよく見られる。様々な歴史を乗り越えた今の時代に錯誤的なものが。

 党派性、対人論証に教条主義権威主義、こういうものの政治的ゴリ押しはどこかで見た事があると思っていた。過去の中国で見られた"文化大革命"的なプロセス。

f:id:iVene:20231123071221j:image(漫画作品「葬送のフリーレン」より引用。此の作中で説明される"魔族"の生態は人間の中にも見られる。カタルシス、自浄の無い商売をする人達等に)

https://x.com/marukwamy/status/1725715080611086601?s=46&t=6MVYq5Ovmu_MXJ16l5mXpw

https://x.com/bowwowolf/status/1726220069594923119?s=46&t=6MVYq5Ovmu_MXJ16l5mXpw

https://x.com/bowwowolf/status/1726219711908913618?s=46&t=6MVYq5Ovmu_MXJ16l5mXpw

https://m.youtube.com/watch?v=3oAmgOyreA0

https://m.youtube.com/watch?v=ZFBzSjcM1ec

文化大革命
 文化大革命(ぶんかだいかくめい)とは、中華人民共和国で1966年から1976年まで続き、1977年に終結宣言がなされた、中国共産党中央委員会主席毛沢東主導による「文化改革運動」を装った劉少奇からの奪権運動、政治闘争である。全称は無産階級文化大革命簡体字: 无产阶级文化大革命繁体字: 無產階級文化大革命プロレタリア文化大革命)、略称は文革(ぶんかく)。「造反有理」(謀反には道理がある)を叫ぶ紅衛兵に始まり、中国共産党指導層の相次ぐ失脚、毛沢東絶対化という一連によって、中国社会は激しく荒れ乱れ、現代中国の政治・社会に大きな禍根を残して挫折した。
目的
 毛沢東劉少奇からの奪権、及び復権をするための大規模な権力闘争。毛沢東自らの権力を固めるために仕掛けた大衆運動。
結果
 毛沢東の死去により終結。多数の人命が失われ、中国国内の主要な伝統文化の破壊と経済活動および学術活動の長期停滞をもたらした。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%87%E5%8C%96%E5%A4%A7%E9%9D%A9%E5%91%BD