【Memorandum】"十頭十色"ネプチューンオオカブト

 南米大陸北西にやや広く分布するネプチューンオオカブト。分類の話はタイプが合体個体だった等これまで知られ、ベネズエラ周辺産の亜種分類については結構混乱があるらしい。

f:id:iVene:20240310092850j:image(「Schönherr, C. J., 1806. Synonymia Insectorum, oder: Versuch einer Synonymie aller bisher bekannten Insecten; nach Fabricii Systema Eleutheratorum geordnet. Ersten Band. Stockholm 1:1-293.」より引用。久松博士や永井信二氏も著書内に引用した有名な図。タイプ個体実物の現存も私的に確認、原記載図の通り前胸以外をヘラクレスオオカブトで補われた合体個体)

f:id:iVene:20240310175529j:image(iNaturalistより引用。iNaturalistでのネプチューンオオカブトの記録は現時点でこんな感じらしい。生態故か他大型種より少ない。ベネズエラ産の記録もいつか付くんだろうか)

 一応は生体が多数出回るよりも前に直輸入業者等から入手しておいた分が手元にあるものの、現在雑多に出回る物量からすれば心もとない。また過去にベネズエラ産の小型♂や♀はヨーロッパ系等の業者から補ってはみたが、そういうデータはやはり確信が持てない。こういった悩みが出来てしまうから、自己採集か採集者から直接入手する手法が本来最も望ましい。

 其れを考えるのにネプチューンオオカブトはやや良い教材になる。様々な個体の側面図を大きめのものに限るものの以下に列挙する(飼育個体についてはいずれもWF1〜WF3)。印象的な部位以外のおおまかな型だけでもバリエーションが幅広くある事が解る。

 自然現象をどう考えるか、言葉の論理のみからではなく"見て考えての繰り返し"からでなければ分からない事も多い。

f:id:iVene:20240309235430j:imageベネズエラ産。20世紀末、或る蝶屋さんが蝶採集のついでに採集した個体群の一つ。しかし詳細なデータは付いていなかった。黄金期の頃は採集家によるラベルでも曖昧なデータが多数派だった)
f:id:iVene:20240309235427j:imageベネズエラ産。ebayで現地の採集家より)

f:id:iVene:20240309235543j:image(コロンビア産野外個体。野外個体は飼育技術が浸透していなかった頃の直輸入店によるサンタンデルの現地調達)
f:id:iVene:20240309235528j:image(コロンビア産野外個体)
f:id:iVene:20240309235537j:image(コロンビア産野外個体)
f:id:iVene:20240309235534j:image(コロンビア産野外個体)
f:id:iVene:20240309235519j:image(コロンビア産野外個体。狙って採集出来なかった時代の個体は破損率が高い)
f:id:iVene:20240309235509j:image(コロンビア産野外個体。基本型)
f:id:iVene:20240309235507j:image(コロンビア産野外個体)
f:id:iVene:20240309235522j:image(コロンビア産野外個体)
f:id:iVene:20240309235531j:image(コロンビア産飼育個体。飼育技術が未発達だった時代の飼育個体群は野外個体と遜色無い個体が結構あった)
f:id:iVene:20240309235525j:image(コロンビア産飼育個体)
f:id:iVene:20240309235513j:image(コロンビア産飼育個体)
f:id:iVene:20240309235504j:image(コロンビア産飼育個体。羽化不全テネラル)
f:id:iVene:20240309235501j:image(コロンビア産飼育個体。羽化不全テネラル)
f:id:iVene:20240309235548j:image(コロンビア産飼育個体。型の雰囲気は分布域の離れる近縁別種サタンオオカブトに似るがWF1で交雑個体ではない)
f:id:iVene:20240309235540j:image(コロンビア産飼育個体)
f:id:iVene:20240309235546j:image(コロンビア産飼育個体。多数の飼育者が羽化させる個体群は此のように胸角より頭角の長い個体が多い。野外個体ではあまり見ない不思議な現象だが、飼育者によって傾向が変わる感じもある?つまりフェノコピーが分かり易く作用している事がわかる)
f:id:iVene:20240309235516j:image(コロンビア産飼育個体。此の個体ではないが、巷で多く見かける累代の進んだ個体群は累代数が浅かった頃より型が安定しているように見える。"そういう"生物種なのかもしれない)

f:id:iVene:20240309235604j:imageエクアドル産野外個体。"十人十色"という感じで型がバラつく。小型♂や♀はともかく中型〜大型の♂個体はいずれも個性が強く出る。"1生物集団内の多様性"はこういった明瞭な観察が考察の導入になりやすい)
f:id:iVene:20240309235607j:imageエクアドル産野外個体)
f:id:iVene:20240309235610j:imageエクアドル産野外個体。交尾器の形もバラつきがあってなお且つパラメレの開閉具合で見え方が異なるから観察に注意を要する)

 ネプチューンオオカブトは飼育個体は環境によりけりなのか、場合によってはWF1でも野外個体とは異なる型になりやすいらしい。フェノコピーの働きかけがどうなのか等を詳しく考える術は今のところ無いが、進化の歴史を類推する材料としてはなかなか良い。

 ただやはりデータが真偽不明で駄目だと何をテーマにしてもマトモな考察にならないから、データの真偽性に拘る事は基礎的に考えねばならない。

、、、、、

 ネプチューンオオカブトは遺伝子的にもヘラクレスオオカブトのグループと近縁な性質が垣間見えるが、中間的な生物種・亜種が見つからない事に自然史の壮大なロマンを感じる。Theogenesはどの段階で分化したのか、タイムマシン技術でもあれば太古の南米を調べてみたくなるものだが。

【Reference】

Schönherr, C. J., 1806. Synonymia Insectorum, oder: Versuch einer Synonymie aller bisher bekannten Insecten; nach Fabricii Systema Eleutheratorum geordnet. Ersten Band. Stockholm 1:1-293.

【追記】

 ネプチューンオオカブトをズラーッと並べると集めていた黄金期の頃を思い出す。友人達と「30年くらい前は本当に良い時代だった」等と懐古する。

 黄金期の頃は近年跋扈するような転売屋は殆どいなかったからデータの問題で悩むことも殆ど無かった。それに希少種が高額なのは仕方ないとしても普通種は安かった。採集家は普通種で儲けようとはしなかった。

f:id:iVene:20240310094045j:image(転売が流行れば捏造データも流行るようになる。バレなければ良いという問題ではなく、業界の信頼が"贋作を本物と誤認させる嗜好"になってゆく風紀の乱れにより落ちる所にある)

f:id:iVene:20240310182113j:image(データさえ大丈夫なら、同定が間違っていても資料性はある。しかし転売される個体だと話は変わってくる)

 しかし昨今の虫業界の場合、何故かは知らないが"転売屋"と"代理店"の区別がついていない人達が物凄く多い。此れは昔から某社すら同様で、だからなのか軽く考えている人達が多い。此れについて注記しておく。

https://x.com/freiring/status/1756262594732826684?s=46&t=6MVYq5Ovmu_MXJ16l5mXpw

(前略)

2.転売とは?

 転売は文字通りです。どっから買ったか分からず、どこに売ったかも不明で更にはメーカーに何かをコミットしている訳ではなく、販売や生産計画に大きな害を伴う存在です。また購入したお客様には、その商品に対する信頼感、と言う点に於いては一抹の不安を与えかねません。

(中略)

3.結局、資質の問題です

 その昔、日本にいる頃、ある世界石油五大メジャーの一つと直の契約をしていた時期がありました。これはそれまでやったモータースポーツの活動実績を評価されたのがその理由です。

しかし私はそこで、致命的なミスをしてしまいます。

 販社を希望していた会社を信じて、販売権を渡してしまいました。向こうにしてみたら、メーカーと直接くっつく事が目的です。私を排除し、メーカーの看板で自身を固め、相手を信用させる事。
逆に言うと目的はこれだけです。

 契約するまでは従順な態度でしたが、契約後は豹変。私の排除に必死でしたがメーカーが食い止めてくれました。メーカーはキチンと私の指導のもとで販売をする様に指導しましたが言うことを聞かず。

 結果、そうは言っても世界の五大石油メジャーですから、彼らの持っている別のブランドを私に与えました。すると彼らは狂った様になり、『あのブランドはウチができる。なぜウチにやらせない』と大騒ぎし、結果、二年後にそこは契約解除の憂き目に遭いました。

 この代表者も『いまやる事はAですよ、Bですよ!』と言っても『分かっています山ですね!川ですね!』と違う理解をするタイプでした。大体、共通していますね、こう言う動きをする人って。

(後略)

https://note.com/gwr_marketing/n/nf3febc90edc1

(なお"代理店"と自称する転売屋も存在する。某楽◯関連企業なんかもメーカー不明な商品を大量に陳列していて買ってみれば1〜2週間で壊れる粗悪品ばかりと質が低い)

 昆虫業界のような自然界由来の生物を取り扱う場合、"誰々から仕入れた"等と言っても其れを言う人物が転売屋ならば信用する事が出来なくなる。

f:id:iVene:20240310084613j:image(データ問題は長年現地調達してきた標本商の友人ですら悩まされる。転売屋は元より現地採り子にも色々いるらしいが、此れも現地入りしていなければ分からないし、各詳細があるか否かで考慮すべき事も変わってくる)

 データ信頼性のヒエラルキーは、採集家や産地付近の原住民によるものが最も高く、次いで卸元を明確にする代理店や私みたいに虫を売らない人間、最低辺に転売屋や詐欺師(疑似科学の信奉者含む)という具合。此のヒエラルキーは科学的に絶対で覆る事が無い。

https://graff-it-i.com/2022/03/21/service-reliability-hierarchy/

 データの問題で混乱するような事がある場合は、採集に行くか産地付近の原住民に任せてしまう事が推奨され、より良い建設的な方針を採る場合はABS問題で問題提議されるように原産国以外の研究家や非採集家は"お払い箱"になる方向に向かう。

f:id:iVene:20240310160537j:image(漫画作品「ドラゴン桜」より引用。業界の様々な混乱の原因は対応して様々あるが、大抵の場合に問題の根源として"転売屋の存在"に行き着く。「転売屋みたいなのがいなければ混乱も拗れなかったろう」と、、)

https://news.yahoo.co.jp/articles/fbbe73eca69277dcf9dde675ac60fc32114190be

 採集家で怪しい人物がいる場合には、採集家以外にはどうしようも無い話だから採集家間で問題をクリアする事が推奨される。代理店業者間、収集家間でも同様。なお転売屋だけは議論不要で信用されない。

 未記載の隠蔽種等を観ていてもハッキリ解るのだが、再現性は採集家や現地人のデータの方がよく保っていて信用できる。自然界現象には科学的な再現性があり、また信用できる採集家がいるから相対的に転売屋には信用が無い。逆に転売屋を信用するという事は採集家を疑うという事にもなりうる。其れは流石に訳が分からない。