【Memorandum】"天然"個体

 外国産昆虫の生体輸入解禁があって暫くの頃、生体側の販路では"野外個体"という単語はあまり使われず「天然」という1語で"飼育個体ではない"という意味の話が普通に通じていた事がある。野外個体という言葉が滅多に交わされない程に。(昔は"ワイルド"とか"WILD"もあった。"WD"と略される例や"Wild"と小文字を混ぜられる例も少なかった覚えがある。)

 今はあまり使われないように、この"天然"という言葉が廃れたのは「天然の形の飼育個体」を堂々と売りだした商売人達の登場の時期に被る。飼育個体群を売りたい人達からすれば需要層の"野外個体に対する拘り"は訝しい。ブームだった頃の昔は愛好家数も多く天然・野外個体に拘る人達が殆どであった。

 "天然"が廃り、古き良き"野外個体"という言葉が流行ると当然のように「野外個体の形に近い飼育個体」という宣伝文句が出てくるのだが、"野外個体"の言葉は死虫・標本を扱う古くから頻用が普通という通念であったため、飼育個体の売人が発する宣伝文句は我々からとってすれば寧ろ欺瞞的に聞こえるようになっていった。

 種によって、或いは飼育法によっては飼育個体でも野外個体と其れほど遜色無い個体が羽化してくる確率が上がる事はあり得る。其れを逆手にとってデータラベルを高く売れる産地名に変えたり捏造する人達も増えてしまった。輸入ルートが気になる時代が賢明であったところから、反動して"表記の見栄え"で勝負を仕掛ける売り手が沢山生み出されてしまった。

https://www.npo-homepage.go.jp/npoportal/detail/034000172

(歯の浮くような台詞も大抵はお金のために綴られるので最後は軽薄に締めくくられる)

https://yomi.tokyo/agate/gimpo/insect/1276145038/1-/a

 一般的なバイヤー側にとってすれば画像や虫の観察程度で正確に判断する方法が殆ど無い。疑念がつきやすい分類群については原産地ルートから追跡出来るWF1やWF2は資料として許容範囲だが拘って資料を集めていると結構もどかしい話である。

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(知る人ぞ知るブータン・トンサ産アンタエウスオオクワガタの"天然"個体。アンタエウス・ブーム真っ盛りだった当時、原産地から直接輸入された初輸入だった生体は1ペア数百万円で取引され驚きだった。"数頭の虫に数百万円?虫に?"と。画像の個体は其の同ロットに入っていた死虫である。どうやって許可を取って採集・輸出入されたのかは当時の業者のみぞ知る。さて、まるで凄い虫かのように錯覚するがどうだろうか。インド産やネパール産との判別も怪しく飼育は容易で今や他産地表記の個体群合わせ大量に飼育個体群が出回る。アンタエウス・ブームは私の体感で2003年に突如終了した。こういうのは"野外個体"と言っても客観的価値があるのか悩ましい。自己採集する事の方が価値はありそうである)