【Memorandum】育種された系統について実験ノートは残ってる?

 ヘラクレスオオカブトの超極太というのがある。そういう自然界で見られない品種?、血統として売られているのを見かける。

 元の生物はグアドループヘラクレスオオカブト原名亜種という事だが、CB個体であり原産地で採集されたところまでの家系図的な詳細は不明であるから"純系の子孫"とは言えない。

 しかしながら通常の野生型に比べ著しい外形変化が見られるから、交尾器にも変化があるのかどうか気になって入手してみた。

f:id:iVene:20240403083057j:image(前半身斜め前から。前胸背の角状突起が著しく肥大化した様が見られる。此の型は自然界では全く見られない)

f:id:iVene:20240403083100j:image(比較用に図示する体長・前胸長が殆ど同じグアドループ産WF2♂個体の、前半身斜め前からの画像。邦人採集個体の子孫で、採集者から直接入手した個体群の一つ。長く飼われていたからか擦れが多いが、型は野外個体に引けを取らず美しい)

 結果、交尾器も微妙に太い感じにはなっていたが通常の野生型の変異内だった。という事は前胸の角まわりだけが突出して著しい変化を呈した変異個体なのだと理解可能だが、ならば生物現象として此の虫の系統に何が起こってこうなったのか気になる。

f:id:iVene:20240403083111j:image(ついでに170mm以上が出やすくなった系統のCB♂個体も一応手にしてみた。体長は171.6mm。この個体も交尾器に特筆すべき変化は見られなかった。迫力はあるが、これ以上調べる気が起きない、、)

 ネットで調べてみれば色んな系統の掛け合わせで作られた系統なんだそうという事はわかるが、今ある情報だと曖昧なものしか見つからない。"どの遺伝子座に異常が生じて変異しているのか"、無差別に販売される割にそういう配列の詳しい情報が見つからない。

 CB個体で作られたとはいえ此処まで著しい変化なら、原因の遺伝子を突き止めグアドループで新たに採集された野生型系統に同様の遺伝子状態になるよう遺伝子導入を行えば、純粋な野生型系統で同様の外形変異が見られると予想される。両方とも現生する生物系統だから全く不可能という状況ではない。

 ただまぁモデル生物でもないし遺伝子マーカーとしての利用価値もあまり考えられないから私的に自身でゲノム解析からマッピングして比較検証なんて手間のかかり過ぎる事をしようという気にもならないが、違和感が"詳しく調べられていない異常型の生物が軽い感じで商業利用されている状況"にある。

研究におけるモデル生物

 モデル生物とは、特定の生物学的プロセスを研究するために研究者が使用する生物種です。 モデル生物は、人間と似た遺伝的特徴を持ち、遺伝子学、発生生物学、神経科学などの研究分野で一般的に使用されています。  通常、モデル生物は実験環境での維持や繁殖が容易であること、生殖サイクルが短いこと、または、特定の形質や病気を研究するために突然変異体を生成する能力を持つことで選ばれます。 

 モデル生物は細胞、組織、臓器、システムレベルで生態系について貴重な洞察をもたらしてくれます。 モデル生物には複数の種類があり、複雑さや用途が異なります。 通常、酵母のような小さく単純な生物はヒトのがんにおける遺伝子突然変異の研究に用いられ、ミバエ(Drosophila melanogaster)やゼブラフィッシュ(Danio rerio)は、病気の遺伝子的特徴と進行の研究に適しています。 マウスモデルもまた、病気の進行や新薬開発の研究のために生物医学研究で広く使用されています。 

https://www.leica-microsystems.com/jp/%E3%82%A2%E3%83%97%E3%83%AA%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3/%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%95%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B9/%E7%A0%94%E7%A9%B6%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E3%83%A2%E3%83%87%E3%83%AB%E7%94%9F%E7%89%A9/

マーカー遺伝子とは

概要

 マーカー遺伝子は組換えDNAを持つ宿主細胞の同定に使われる遺伝子のことです。その遺伝子の存在が簡単に検出できたり、その形質が発現したりします。 一般に、細胞内にDNA分子を取り込ませる形質転換は必ずしも効率の良いものではありません。わずかな細胞しかDNAを取り込まないからです。その結果、形質転換に成功した細胞を膨大な量の未転換細胞から識別しなければいけません。その識別のために、形質転換された細胞だけが生き残れるような条件下で細胞を成育させたり、組換えDNAの存在をテストするスクリーニングを行ったりする必要があります。このためにマーカー遺伝子が利用されるのです。

https://www.wdb.com/kenq/dictionary/marker-gene

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 こういう自然界に無い見た目の生物を人工的に作り出す行いを基本的に"育種"と言う。

 育種学とは、動植物の育種のための理論構築と技術向上を目的とする農学の一分野であり、大別して植物育種学と動物育種学に分かれる。両者の基礎理論には違いはないが、植物においては同じ遺伝子型の個体を複数取り扱えることが多いのに対して、多くの動物(特に脊椎動物)では個体毎に異なる遺伝子型であることが大きく違っている。

 育種学の体系的な研究の歴史は、メンデルの法則の再発見以降である。遺伝学の応用科学として発展してきた。

 現在では、交雑育種、突然変異育種、遺伝子組換え、マーカー支援選抜(MAS: "Marker assisted selection" or "Marker aided selection" 訳語が一定しておらずマーカー選抜、マーカー利用選抜ともいう)などの手法の研究と実践を含む。統計遺伝学、実験計画法や分子生物学など幅広い研究分野と関連を持っている。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%82%B2%E7%A8%AE%E5%AD%A6

 育種自体には歴史があり、養蚕や金魚は世界的に知られる典型例。例えば昔に比べると衰退してはいるものの家蚕の養蚕業は数千年に亘る育種の歴史があるらしく、其の育種の歴史は殆どが謎に包まれる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A4%8A%E8%9A%95%E6%A5%AD

 しかし、昔に比べて現在はバイオテクノロジーがとてつもなく発達し、家蚕も金魚もモデル動物として娯楽以外の目的である創薬技術研究等のためゲノム解析が行われたりインフラ向上の一助に利用される事もある。有名な育種生物はそういう緻密な研究の積み重ねで安全性が確認されたり、他への汎用性の高い応用研究が可能になってきた歴史もある。

 そういう"研究"を可能にしているものの重要な一要素として"実験ノート"がある。実験ノートのおかげで研究の再現性を確認出来たり、前の実験者が気付いていなかった事実に気付く事も効率よく可能になったりする。

実験ノートの位置付け

 実験ノートは試料やデータと同様に、実験そのものを事後検証するための材料です。

 実験ノートの記載がずさんだったり、書き込まれた実験ノートが破棄されているケースでは研究不正が疑われた際に否定できなくなります。

 不正を行わない潔白な研究者にとって、実験ノートの記録はまさに自衛手段に他なりません。

 2014年12月に公開された理化学研究所の研究不正についての調査報告書を見ると、研究者本人だけでなく同僚や上司の実験ノートまでもが実験データの正当性を検証する材料として活用されていることが分かります。

 しかし、調査報告書の中には、「実験ノートに記載が見つからず、不明であった」という記述も複数回登場し、実験ノートがしっかりと書かれていない場合は、事後検証が難航するということがわかります。

参考: 理化学研究所(2014-12-26)「STAP細胞論文に関する調査結果について」

https://acaric.jp/articles/3970

 そして知っていなければ分からない実験の危険性も実験ノートから解る事があり、科学論文に使われる研究は実験ノートの作成と保管が義務づけられ、対応して様々な法制度が作られ、また法制度や研究の発展に合わせて実験ノートの内容も詳しく残されてきた。

 分類学でも生物によっては実験ノートを採集過程から記録する必要のある分類群もある(観察までに状態変化した場合の原因追究が目的等)。

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 近年のクワカブ業界で"育種"される系統が作られた過程として、今の時代に必要なレベルの生物学的情報が載った実験ノートが残されている感じがしない。見つけられないだけで存在するんだろうか?少なくとも公的なアクセスが全く容易でない。

 何が起点で突然変異みたいな現象が起きたのか客観的に辿る事が可能な実験ノートが無い生物の商売を、新たに始める意味は何なのか。

https://dic.nicovideo.jp/a/%E6%A5%B5%E3%82%81%E3%81%A6%E3%81%AA%E3%81%AB%E3%81%8B%E7%94%9F%E5%91%BD%E3%81%AB%E5%AF%BE%E3%81%99%E3%82%8B%E4%BE%AE%E8%BE%B1%E3%82%92%E6%84%9F%E3%81%98%E3%81%BE%E3%81%99

 "超極太型のヘラクレスオオカブト"がメンデル遺伝らしい遺伝の仕方をする以上は、フェノコピーが主原因である可能性は無さそうに考えられる。現象は対立遺伝子上にそういう表現型の原因遺伝子がある事を示唆する。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%BA%E4%BC%9D%E7%9A%84%E7%9B%B8%E8%A3%9C%E6%80%A7

 しかし客観的に分かる実験過程の詳細が中途半端だったり曖昧で不明瞭なままの育種系統が作られ、不特定多数の人により累代可能な状態でフリーマーケット上に売られる。

 実験過程も不明なくらいだから、雰囲気的には需要のターゲットが娯楽目的の人以外に無さそうだが、こういう個体を友人達や一般的な人に見せてもやはりというか何というか評判は全然よくない。

 生物学・医学的に重要な研究はキイロショウジョウバエ等のモデル生物で行われるから、後釜でモデル生物の地位に立つ見込みが皆無な生物種が基礎研究に使用される事も期待されない。何のために系統維持されるのか考えてみても大義を見出せない。

https://www.brh.co.jp/publication/journal/022/sc_1

 遺伝子解析で異常型の原因遺伝子をデータ化しておけば現在の系統が絶えても、もしかすれば遠い未来に再現実験が可能かもしれない。なぜクワガタやカブトムシ等昆虫の育種系統はそういう研究も無しに商売されるのだろうか。公益性を殆ど見出せず、極々ニッチな需要が対象の娯楽目的の色が濃い。

 今はもう体系的な研究技術が殆ど無かった時代とは状況が異なる。こういう育種の方針は、金魚や家蚕のように対応を時代に合わせ適応していくべきと考える。

【追記】

 育種された生物がよく調べずに売買される事について、人によっては「キンギョとかイヌみたいなもんだろ」と軽い考えを言う。

 しかしながら、現実にはそういう人類文明に密接してきた生物種は詳しく調べられ、安全性や公益性が考慮されてきた。

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 遺伝子改変の危険性について、最近の分かりやすい例で言えば新型コロナウイルスCOVID-19の流行に対して行われた科学者達による緊急の対応。初期の流行では感染性・毒性が強く、著名人含め多くが亡くなられてしまった。

 潜伏期間にも強い感染性があり、しかも潜伏期間が長い。爆発的な感染源は、発言や方針がご都合主義的にコロコロ変わる巨大な共産主義国と目される。世界各国で都市部に人口が集中しやすい構成をしてきた人類社会にはクリティカルな大厄災だった。

 新型コロナウイルス用のワクチンは緊急で必要となり、mRNAワクチン実用化の技術が作られた。

 ポイントは、ここで作られたワクチンは緊急事態のために作られた技術という点。今はこのコロナワクチンで様々な論争が噴き上げられている。

 mRNAワクチン実用化技術は緊急で作られた凄まじい技術でノーベル賞を受賞するのも全く納得なのだが、とりあえずこれだけ突貫工事的に作られたワクチンを充分な治験もないまま身体の中に入れるのは抵抗感があり私は結構事前に安全性を調べていた。

 とりあえず前提としてCOVID-19は気をつけていれば感染確率を極力下げられる事が分かった。すぐに感染していた人達は衛生観念が粗かった事も意味してしまうが、其れが現実だった。

 調べる限り症状の重篤化が懸念される高齢者層はワクチン接種の必要性が考えられたが、どうも接種者達の多くが急な発熱の副反応を伴っていた事が怖かった。

 免疫系の機序によるものだから1回目から2回目へと回数を経るごとに副反応が強くなるという説明は理解可能だが、発熱の原因そのものの機序は詳しく調べられている感じがしない。様々な副反応は後になって調べられている状況らしい。

 一応は任意接種という事で、締切も無いという話なので私個人は仕事の忙しさも相まってワクチン接種しないまま長期間が過ぎ今に至る。

 私は別にワクチンに反対している訳でも無いが、接種に積極性も無いという考え。其れに無症状で自然罹患していた可能性が高く、免疫系を考えれば自然罹患による免疫獲得が最も後には良いらしい事も理解した。緊急性を考えれば2回目までは非高齢者でも仕方ないと。

 しかしネット上では此のワクチン問題が年がら年中紛糾している。政府の打ち出した政策で、人によってはワクチン接種が半分強制的に求められたからだ。社会的圧力、海外渡航にはワクチン接種が必要などで。

 当時の私はブラック企業を脱出した後で運が良かったのか無縁な圧力だったが、他には避けて通れない人達が沢山いた。

 私的な考えだが、あの政策はあまりにも強制的過ぎたのではないかと、政府全体による運用方針を問題視する。

 ワクチン自体に利用価値はあるのはあるが、"任意接種"と言う割には、危険性の検証が薄いまま社会的な同調圧力を利用して行き過ぎた接種推奨がされた格好にしか見えなかった。

https://x.com/takavet1/status/1774885734669070409?s=46&t=6MVYq5Ovmu_MXJ16l5mXpw

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 政治家もそうだが、一般人も殆どがサイエンスの深淵を知らない。もちろん私も知らない事だらけで、というか知る術の無いブラックボックス的要素が生物現象の神秘に詰まっていて、今の時代でも知っていなくて当然の事が膨大にある。

 今代の文明社会ではそういうのをしっかり調べられ、安全性の検証をされたものが世の中に受け入れられて衣食住に浸透する。

 しかし人によっては知らないままに其の運用法を誤ってしまう。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B4%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%82%A2%E8%A2%AB%E6%9B%9D%E4%BA%8B%E6%95%85

 社会的な同調圧力というと宗教裁判で魔女狩りが行われた人類の歴史の汚点を思い出す。知らないものをよく知らないまま利用したい、しかし安心して使いたいという欲求は、自力の理性で抑えなければ人間の本能だから止まる事を知らない。これもマインドの問題と考えられる。

https://x.com/himasoraakane/status/1774853839625314623?s=46&t=6MVYq5Ovmu_MXJ16l5mXpw