†Oncelytris esquamatus Li, Yan-Da, Huang, Di-Ying, Cai, Chen-Yang, 2023についての検証

Oncelytris esquamatus Li, Yan-Da, Huang, Di-Ying, Cai, Chen-Yang, 2023.

Holotype data: Amber mine located near Noije Bum Village, Tanai Township, Myitkyina District, Kachin State, Myanmar; unnamed horizon, mid-Cretaceous, upper Albian to Lower Cenomanian.

 産地はミャンマー・カチン州タナイ。約1億年前の中生代(中期白亜紀アルビアン後期〜セノマニアン前期)の地層から出土した琥珀を基に記載された。

 検証説明のため画像を引用する。

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f:id:iVene:20230520213824j:image(「Li, Yan-Da, Huang, Di-Ying, Cai, Chen-Yang, 2023. Oncelytris esquamatus gen. et sp. nov. from mid-Cretaceous amber of northern Myanmar (Coleoptera: Lucanidae). Zootaxa 5284 (1): 192-198.」より引用)

 Lucanidaeに分類されるが、とりあえず爪間板を明瞭に識別可能な図示が見られず、TrogidaeかLucanidaeか図のみからは判別出来ない。Trogidaeの事も記述中にあったが、明瞭な区別法について言及が無い。また画像を見る限りでは、虫個体の変形があると察せられる。

 私の持つ4個体目に似るから、もしかしたらLucanidaeかもしれないが、其れを示せるだけの論文の体にはなってないと考える。

https://ivene.hatenablog.com/entry/2022/01/26/064457

 論文参照の限りでは科同定に必要な部位が殆ど見えず判然としないものの、同産地からTrogidaeとして記載されたKresnikus beynoni Tihelka, Huang, & Cai, 2019もある。此の既知分類群について私は科同定も保留にしているが、新しい分類をするならば似た外形である此の既知分類群との関係性を論文引用のみでなく深く考えるべきである。

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(「Tihelka, Erik; Huang, Diying; Cai, Chenyang, 2019. "A new subfamily of hide beetles from the Cretaceous of northern Myanmar (Coleoptera: Scarabaeoidea: Trogidae)". Historical Biology. 33 (4): 506–513.」より引用)

 †O. esquamatus原記載中では"上翅の毛束が例外的"という記述が見られ、既知化石種と別属にした根拠らしい。しかし此の程度の差異で白亜紀の絶滅種を属分類する事に私は同意しない。絶滅した約一億年前の白亜紀クワガタムシについて種内変異の幅域が現生種と同様だったか否か少数個体の外形のみ見比べても分からない。慎重な考察が求められる。

 とりあえず上記の理由から、今回の甲虫は現状で科同定困難な個体と考えられる。属と種の同定は不可能とも。

【References】

Li, Yan-Da, Huang, Di-Ying, Cai, Chen-Yang, 2023. Oncelytris esquamatus gen. et sp. nov. from mid-Cretaceous amber of northern Myanmar (Coleoptera: Lucanidae). Zootaxa 5284 (1): 192-198.

Cai, Chenyang, Zi-Wei Yin, Ye Liu & Di-Ying Huang. 2017. Protonicagus tani gen. et sp. nov., the first stag beetles from Upper Cretaceous Burmese amber (Coleoptera: Lucanidae: Aesalinae: Nicagini). Cretaceous Research. 78. 109-112.

Tihelka, Erik; Huang, Diying; Cai, Chenyang, 2019. "A new subfamily of hide beetles from the Cretaceous of northern Myanmar (Coleoptera: Scarabaeoidea: Trogidae)". Historical Biology. 33 (4): 506–513.

Tabana, M., Okuda, N., 1992. Notes on Nicagus japonicus Nagel. Gekkan-Mushi 256, 4-10.

【追記】

 つい最近記載されたもので、分類屋の友人からも論文情報を私に送っていただいた。論文内容は当記事本文中にした批評のみならず、山ほど突っ込みたい事があったが、大体は過去記事に書いた批判と重複する批判だったため最低限にした。ただまぁ資料自体は画像を見る限り本物だろうし貴重な資料だから、もしも"科同定が出来た"というスタンスなら"不明種の型記載"で良かったと考えられる。

 新しい事を知るのは楽しい事の筈だが、納得出来ない事と理解すれば逆に頭が痛くなる。分類学は此のような問題があらゆるところで多数見られる。"純粋な興味"で研究されていない知見が多いと考えられる。

https://twitter.com/himasoraakane/status/1658920839675256833?s=46&t=6MVYq5Ovmu_MXJ16l5mXpw

 問題解決は難しいが、だから私の場合blogを作った理由は当初から言っているように"考えたい人達のため"という点に一貫した動機がある。そもそも思考を放棄したい人達を歓迎していない。

 不正な研究を直接正すのは大変な労力が必要になる。制限するだけでは意味が無いし、大抵の人達にそんな規制を敷く権限はなく後手後手の処理になる。其れに単なる規制では利権化みたく悪用されかねない。

https://twitter.com/azabu_food/status/1658100836768321536?s=46&t=6MVYq5Ovmu_MXJ16l5mXpw

 しかしややこしい知見が増えるのは、其れを簡単に受け入れてしまう大多数の人々の思考力・認知力などの感受性に致命的な問題があると考えられた。不正な論文を出す人達は其の情報格差を利用して商売し、従来の"競争の事など考えず慎重な真実追究をしたい人達"のあらゆる機会を奪ってきた。

 だから其の認知的問題の部分について修正を促す事が、同時に比較的軽いコストで"故意に不正を働く可能性がある人間達の存在"を社会に認知させられると理解可能であった。

https://twitter.com/magozoun/status/1658957149916241920?s=46&t=6MVYq5Ovmu_MXJ16l5mXpw

 当blogアクセス数も合計5万を越えた。思ったよりも、わざわざ読みに来る人達が沢山おられるらしい。普通の純粋な考え方の人達ならば、どこかしこで文章になっていない要素が何なのか理解出来るだろうと期待したい。