【Memorandum・甦る伝説】国境付近のデータ騒動

 データは再現性を示す重要な知識。化石に其れが無いと何を見ているのか分からない事が多い。現生種でも似た壁によくぶつかる。其れを考える上で良い例になる、2005年のネット上で起きた虫業界の事件を挙げる。

 当時は巷でよく話題になった話だったが、昆虫雑誌などで触れられた記事はでなかった。

 此の資料を残していたのはどうやら私だけだったらしいが、関わるデータの個体群に関して重要参考資料になると考えられたので公開する事とした。まぁ当時みたいに原産地と密接した要素を考えて調べていた人達にしかよく分からない話であるけど。

 今は無き奈良の某大手と、当時独立して間もなかったブローカーの戦記でもある。話題の中心は当時ミャンマー・ザガイン管区からという触れ込みで齎された虫個体群。当時では目新しかった顔触れの種が多く、大勢の愛好家の注目を集めた。

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(今は無き某大手ショップのホームページ図から引用)

 このように疑義が投げられた訳である。

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 以下は某大手に疑義をつけられたブローカー側の反論。情報の回りにくかった当時にしては即座に対応されていた。

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(過去ネットオークションより引用)

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 其れに対してまた某大手の反論

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(今は無き某大手ショップのホームページ図から引用)

 聞きようによっては間違いでは無い論述も見られるが具体性が無い。

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 ブローカー側の説明が続く。
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(過去ネットオークションより引用)

 此方の方が科学的姿勢が読み取れる。原産国のキャッチャー達がわざわざ国外個体群を採集しに行ってデータを意図的に混ぜるメリットは無い。

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 某大手は更に以下の通り。

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(過去ネットオークションより引用)

 色々書いてあるけど読者には腑に落ちない話が多い。

https://twitter.com/terrakei07/status/1541629884132298754?s=21&t=NK_2y5tx4w1MpfbV0fZ0lw

 当時、最終的なジャッジメントは虫で行われた。

 此の分類群の色彩等変異が多彩である事は野外個体からもWF1個体群からもよく知られた。分類可能なほどの地域差があるならば1♀から産まれる確実なWF1で多型に悩むことは無い。

 当時は同エリアから輸入され始めた頃だったので、CB個体が混ざる不安は無かったから野外個体とされる1♀から産まれる飼育個体群が野生型の遺伝子を持っている事に不安がなかった。

 疑義根拠の一つに挙げられている論文は保証にならない。

 様々多様な言い分も強弁の割に根拠が粗野薄弱だから信用しづらい。丁寧に読めば読むほど後年倒産した某大手サイドに分が無かった事が理解が出来てしまう。

 そもそも大手とはいえ採集人でも無く金儲けを目的に虫に値札を貼る売屋がこんな雑な事を言っているのがどうしようも無い。此の議題に関して申せば重々「どの立場でものを言っているのか。他を評する程の事が出来ているのか」という事である。

 結論を言ってしまうと、最初に奈良の某大手が"雑な椿説"を使った循環論法になっている。

循環論法

 前提のなかに結論をあらかじめ入れておく論法で、論理的には認められない。たとえば「彼のいったことは信用してよい。なぜなら彼はよい人だから。そうして彼がよい人だということは、彼のいうことは信用してよいということからわかる」などといった論法がそれである。 https://kotobank.jp/word/%E5%BE%AA%E7%92%B0%E8%AB%96%E6%B3%95-529742

 黄金期真っ盛りだった当時に増長した其某大手は騒動で顰蹙を買った。データの正確性が問題で"消費者を馬鹿にしている"という話も違和感があった。データを気にする人達というのは基本的に研究センスを持つ愛好家である。であるのに結局具体化されずに有耶無耶になった。他にも色々あったが結局は倒産した。周囲の業者らも煽りを受けた。

 結局説得力の無い暴論で当該ブローカーの営業妨害をしただけにしかならなかった某大手に対する評価も、私の仲間内で著しく下がった。

 後年にミャンマーとの国境付近のインド・アッサム側エリアで得られた出品画像の分類群の個体形態がミャンマー・ザガイン管区の個体群と一致する訳だが、生息地の繋がっていた地域の個体群だから"まぁ別にそりゃそうだよね"という話。即ち某大手は自爆で徒労だったのである。

【追記】

 実際問題として原産地の業者によりデータの取り扱いが雑だった例もあった。集荷地がデータになっていた等が其れである。

 あの頃は観察眼も育ってないままの人達の間で、恐ろしい値段をつけて高額売買される直輸入生体が散見された。当記事本文に関わる種群もそうだったが、他にもアンタエウスオオクワガタなんかはブータン産やインド産がどうのと常習的に疑義が飛び交った。

 当時の直輸入生体は確かに恐ろしい価格帯で簡単に売買されたため、邪智深い転売屋や飼育専門業者らがデータを書き換えて暴利を貪ろうとした事もあった。当初アンタエウスは"インド産"よりも"ブータン産"が圧倒して高額売買された(輸入の必要経費に大きく差があった為)。だから信用問題に雲がかかるとたちまち大暴落した。

 原産地に入って様々な事を知っていれば分かる事が多いが、お金で虫を買う人達はそこまで深い事を知らない。悪い業者らはそこを突くし、賢い人達は怪しげな虫を買わない。

 本文で疑義を投げられ反論したブローカー氏は其の反論文章から読み取れるように堅い自信があったが、第三者にとって分からない事もあるだろうと自己投影したから自然な考え方を提示しつつ科学的な反論をしている。

 調べようとすれば観察したり勉強するだけで時間が足りなくなる。良質な資料を得たいなら一次資料を、遺伝子や偽データのコンタミが疑われる分類群の虫ならば原産地に採集に行くしか無くなってきている。実際問題、原産国人が自力で研究できた方が良いのではあるが。

 例えば私の標本商の友人は開拓の足りていない地域で新たな発見をしたいから外国僻地で命を賭ける。虫は売られるが次の産地調査の費用に資金が必要だからという大義がある。私は齎される発見について更に詳しく発見を行うため投資する。資金調達は真面目に働き稼いで準備する。

 一方商売ありきで出てくる変な虫なんかは売り手の宣伝が激しいので遠慮したくなるし科学的必要性も感じない。場合により不買が健全と言われる理由を示す例はそういうところにある。

https://suugakuchannel.com/392/