種を同定する時、結構調べても分からない事がある。情報の少ない既知種であったり未記載種であったりする。
ここ数年は随所で学名が商品名的な扱いをされている事が多いから、あんまり自分が興味を持った頃と雰囲気が違う感じなのだが、まぁそんな"収集癖の所有者"くらいにしか覚えられない学名を記載したところで世の中から忘れられるのも自然な流れというように見える。
また百年後とかに伐採され過ぎて絶滅したとかの話題として思い出されるとかあるかもしれないが。学名は平和な時代にこそ頻用される。成果競争や商業利用に忙しい連中がいる時代は誰もが忙殺されて、生活の身近にいない生物の学名や俗称を庶民は認知する暇も無い。
(南ベトナム産Nigidius neglectus De Lisle, 1964.(?):ネグレクトゥスツノヒョウタンクワガタ(?)。およそ学名の認知が滅多になされなかった種で、私も暫く画像の個体群を未記載種だと思い込んでいた。まさしくネグレクトされていた分類群である。私は偶然にも学名の存在を知り原記載のスケッチと画像の個体群が似ている事を理解したが、記載文のスケッチがどれくらい正確か分からず確かな同定とは出来なかった。ホロタイプを観ないと判然としない)
一方、10年以上未記載種としてよく認知される分類群がある。紳士的な分類屋からは「まぁ特に学名を付けなくても滅びはしないでしょう」と放置される事もある。
(インドネシア・ボルネオ島産の「クギヌキネブトクワガタ」と呼ばれる此の虫は10年以上Aegus sp.で不明種であるとされる。一見しても変わった種で、おそらく未記載種だろうと見られているが、"未記載の可能性に気付いた発見者"が調べがつくまでに他界され故人であるなどから皆が遠慮し「まぁ書かなくて良いか」という事で学名が付けられていない。確か永井信二氏だった。将来的に原産国人が書くかもしれない)
国内種ならいざ知らず、国外の生物に関しては本質的な意義としてABS問題がチラつく今代では新種記載がしづらい。出版誌も続々と新種記載は自粛する傾向になりつつある。原産国への"過度な干渉"にならないよう気をつけなければならない。
学名があるか無いか程度では"既知種とは違うか否かの信頼性"に差が出なくなってしまっている問題もある。相当なブレイクスルー的発見にも関わらず原産地の研究者が不在であったり、古い個体でないと調べが付かない虫でない限りは、原産国人でもない人間が新種記載するというのも紳士的じゃないと言える。採集に行かず飼育累代個体だけを使って外国産分類群を新種記載した日本人研究者が問題視された事例もある。しかし入郷従郷や相互主義の概念が壊れている人達は多い。
【References】
Fujita, H., 2010. The lucanid beetles of the world Mushi-sha’s Iconographic series of Insect 6.472pp., 248pls. Mushi-sha, Tokyo.
De Lisle, M. O. 1964. On some new stag-beetles from Southeast Asia. Niponius 2(8):41-49.
【追記】
情勢を鑑みれば、商売人を持て囃す研究者や商業的な記載をする人間などは、確かに客観的に"痴れ者"の態度にも見えるという視点がある。
私の場合だと"他人のネタを剽窃したみたいに思われたくないから記載しない"と決めている未記載種(?)もある。記載しなくとも観察をすれば科学的面白みは分かる。
コロナ騒動が起きるより前は様々な資料調達をしやすかったけど、今はそういうので難しくなってるから普通にやっていても新種は見つかりにくいかもしれない。
コロナ騒動後は無垢なフリをする詐欺師も増えた。ゆめゆめ油断せぬ事である。