【Memorandum】 "Neolucanus curvidens"の学名有効性と、近似個体発見について

 ベトナム北部の或る地域で採集された、変わった小型種らしきマルバネクワガタを1♂入手し調べてみた。

f:id:iVene:20221029192830j:image(件の変わったベトナム産マルバネクワガタは全体的に艶消しで上翅の発色が鮮やか。しかし今まで見つかっていなかった)

 シニクスマルバネ原亜種に似た雰囲気だが全く別系統のマルバネクワガタ。シニクスマルバネ原亜種のタイプ個体について概要は以前の記事を参考。

https://ivene.hateblo.jp/entry/2022/11/01/085922

f:id:iVene:20221104004527j:image(背面から見比べるとシニクスマルバネ原亜種〈図中左〉と不明種個体〈図中右〉は顎の太さ、内歯の鋭利さ、頭部形態の凹み方や、脚の発達、肩部の形状に差異がある)

f:id:iVene:20221104004548j:image(頭部の腹面を見比べると不明種個体〈図中右〉は下唇基板に剛毛が見られる一方でシニクスマルバネ〈図中左〉では其れが見られない。また交尾器サイズに差異がある)

 四半世紀以上ベトナム北部産クワガタを調べ続けている私でも今頃になって初めて知るクワガタで、私などより長年調べていたり、或いは現地入りまでしてクワガタを始め膨大な虫を見てきている友人達も見た事がないらしかった。たしかにデータの示すエリア(ホン川以東)は調査不足だった。

 さて今回、このマルバネクワガタを同定すべく既知種のどれに該当するか調べてみたが、ベトナム産で形が近しいと言えば、光沢や色彩に変異が広くあるNeolucanus pseudovicinus Fujita, 2010:ニセビキヌスマルバネクワガタくらいだった。

 しかし件の1個体と、ニセビキヌスマルバネとは光沢の著しい差異が見え、小楯板のサイズ比率も結構な差異に見える。前胸背側縁後方の括れ方も異なる。♂交尾器サイズもニセビキヌスは揃って二回り以上小さい。1頭だけだから奇形という可能性も考えられるが、其れにしてはあまりにも綺麗に生物学的構造の差異で見分けられる。別種であるとの可能性も考えてみる。

f:id:iVene:20221029193502j:image(不明種個体と殆ど同サイズのニセビキヌスマルバネクワガタ大型個体。ニセビキヌスマルバネは大きい個体になるほど前脚ケイ節は太くなる。顎の先端付近でタテヅノが出る個体は私自身で数頭見知るが少ない)

f:id:iVene:20221029194310j:image(イエンバイ〜サパ近郊産。ニセビキヌスは光沢や色彩の変異も程度はあるが幅広い。小型個体が大多数で大きい個体は稀)

f:id:iVene:20221029220532j:image(カオバン産。手前の個体ほど発色のある明色型は希少だが、ニセビキヌスのホロタイプが此の色型である。なお私は基産地であるハザンの個体群については入手出来ていない)

f:id:iVene:20221029191042j:image(「Fujita, H., 2010. The lucanid beetles of the world Mushi-sha’s Iconographic series of Insect 6.472pp., 248pls. Mushi-sha, Tokyo.」より引用図)

 ニセビキヌスマルバネはベトナム・ハザンから記載され、ベトナム・イエンバイからは生物種としての判別点が見当たらずシノニムだろうNeolucanus ingae Schenk, 2016が記録される。

f:id:iVene:20221029200424j:image(「Schenk, K.-D. 2016: Description of new Lucanidae from Asia and remark about Neolucanus zebra (Coleoptera, Lucanidae). Beetles World, (12).」より引用図)

 ニセビキヌスマルバネは紅河:ホン川を挟みベトナム北部の東西広くに分布しているかのようなデータが見られる。タイプ個体群を含め幾つか観たところでは、顎先の内側への湾曲(上方へではなく)がホン川より西側で弱い個体が多く、東側で強い個体が多い傾向があるように見える。

http://www.inaturalist.org/observations/37707511

(サパ産はiNaturalistで瑞々しい生体画像を拝める。なんとも雅な明色型。1990年代〜2000年初頭の頃、日本に多数もたらされていたサパ産クワガタ群は高標高の採集個体群が殆どで、比較的低標高に分布が集中するニセビキヌスマルバネは採集されなかった)

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 しかし艶消しの此のマルバネクワガタは何なのか、未記載なのか、と考えている内に、ふと思い出した分類群があった。基準産地を中国の貴州省として2♂で記載された分類群、Neolucanus curvidens Lacroix,1978:クルビデンスマルバネクワガタである。

 N. curvidens原記載時の時代背景などを考慮すると仕方がないのかもしれないが、原記載でタイプシリーズは個人コレクションに所在があるとされる。パラタイプの1♂については後にロンドン自然史博物館が買取ったボーマンス氏のコレクションに含まれていたので公的な参照が可能である。しかし1頭だけだ。

 ホロタイプスケッチとパラタイプの画像を見比べても大差無く、多少のデフォルメを考慮しても特徴を捉えられた割合正確なスケッチだったと考えられる。他種との形態的差異や原記載記述から可能な識別法を考えれば、タイプ2♂の関係は同種であったろうと考えられる。またパラタイプには産地データは無いが、原記載にて"ホロタイプと出所は同じ"と記述されるため産地データは共通すると解る。もしもホロタイプが逸失したとの記録になれば、此のパラタイプがネオタイプに指定されうる。

 Holotypeのデータは"Chine, Kouy Tcheou (ex. coll. Le Moult, 1967, coll. de l'auteur)."とされる。"Kouy Tcheou"はフランス語で"貴州省"を意味する。しかしN. curvidensのタイプ個体群はラクロア氏の入手した資料群でもある為データラベルにある記述は鵜呑みしづらい。ただ、同時に2♂齎されただろう事が状況証拠から推察される。

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f:id:iVene:20221015204502j:image(「Lacroix, J.P. 1978. Contribution à l'études des Coléoptères Lucanides du globe. Deux genres nouveaux et onze espèces inédites (Chiasognathinae, Lucaninae, Chalcodinae, Cladognathinae, Dorcinae). Bulletin et annales de la Société royale d’Entomologie de Belgique 114:249-294.」より引用図)

 ホロタイプの体長は32mm、顎長:5mm、前胸幅:11mm、鞘翅部幅:10.5mmと記述される。

f:id:iVene:20221030114951j:imagehttps://www.flickr.com/photos/nhm_beetle_id/5619433822

 ネット上にN. curvidensのパラタイプ個体の背面・腹面・ラベルの図示が為される。32〜33mm程度。

 ラクロア氏のN. curvidens原記載を読めば、顎の特徴、体型のプロポーションや触角のラメラ形態、艶消しであること等について言及されている。

 N. curvidensのタイプシリーズから読み取れる形態は、全体的に艶消し、背面から見て大顎先端は尖るが先端付近の湾曲位置から基部までテーパーがあまり無く、側面から見て大顎は緩やかに上反しタテヅノ状の内歯は1/4位置で控えめに発達する。頭部の大きい特異的な体型の比率、頭部前縁の凹み方、頭部背面中央の凹み方、上翅の短さと尻窄みにならない形・上翅背面の模様、下唇基板の剛毛の存在などが分かる。パラタイプ画像を一見しても特異的なマルバネクワガタと思える。また1978年の原記載よりも古い時代に此の形態に一致するような個体を含む既知分類群は見られない。

 なおラクロア氏は原記載にて、「この分類群は,Neolucanus opacus BOILEAU, N. pseudopacus HLB, N. sinicus SAUND, N. intermedius HLB, N. oberthuri LTH, N. bisignatus HLBから成るグループに含まれるが,最後の3つはおそらく単一種の色型であろう.Neolucanus curvidens n. sp.はN. atratus DIDIER, nitidus SAUNDERS, angulatus HP., donckieri Didierのグループに移行する位置づけにある。」と記した。

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 しかしN. curvidensについては、シェンク氏が貴州省から記載されているシニクスマルバネ系の分類群"N. pseudopacus intermedius Houlbert,1914のシノニム"であるように分類をしている(Houlbert,1914での原記載では"Neolucanus intermedius"の分類)。

f:id:iVene:20221029185128j:image(「Schenk, K.D. 2014. Description of a new species of the genus Neolucanus Thomson, 1862 (Coleoptera, Lucanidae). Beetles World (10).」より引用抜粋)

※シェンク氏は2014年の報文中、N. curvidensについて説明するFig. 6レジェンドにて、スケッチの描写も写真図の個体もホロタイプであるかのように説明しているが其れは間違いで、スケッチはホロタイプの描写だが写真図の個体について正確にはパラタイプである。というか此の報文中の画像、ところどころ明らかにhttps://fanblogs.jp/anotherstagbeetlesofworld/のサイトから引用元も書かずに編集済画像をコピペしてあるが、其れは論文を書く姿勢としても如何なものか。高画質の図はあるのだから其方を見るべきである。。

 "Neolucanus intermedius"はN. curvidens同様に"Kouy Tcheou"を基準産地として記載されるが、さてどんな個体なのか。

f:id:iVene:20221019095204j:image(「Schenk, K.D. 2014. Description of a new species of the genus Neolucanus Thomson, 1862 (Coleoptera, Lucanidae). Beetles World (10).」より引用抜粋。"Neolucanus intermedius"のSyntypeの一つ)

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f:id:iVene:20221015211832j:image(「Houlbert, C. 1914. Quelque Neolucanus nouveaux de la Faune Malaise et Indo-Chinoise. Insecta, revue illustree d’Entomologie, Rennes 4:252-260.」より引用抜粋)

 シンタイプ個体群を俯瞰するのみでも"N. intermedius"はシニクスマルバネクワガタの系譜であると分かる(※但し本来のシニクスマルバネとの関係性について私は未調査)。シニクス系マルバネクワガタは♂の下唇基板に剛毛が無く、大顎の先細る形態や頭部各部位の凹み方から、"N. intermedius"との比較ならば尻窄みになる体型や其の他の形態までも差異の理解は容易と考えられる。

 私はシニクス系マルバネクワガタの変異の中でN. curvidensのような体型の個体を観た試しが無い。残念ながら"貴州省産"から"Neolucanus intermedius Houlbert,1914"と全く一致する個体を観察出来ていないから正確な分類を知る訳ではないが、シンタイプ個体群を一見してもシニクスマルバネクワガタに近しい系譜にしか見えない。私にはシェンク氏がN. curvidensを此れのシノニムに分類した真意を全く理解出来ない。

https://fanblogs.jp/anotherstagbeetlesofworld/archive/495/0

(上記URLの記事でも下唇基板の特徴に触れられている。ちなみに上記URL中の記事内にある"数頭の♀で記載され..."の部分の記述は誤りで、現状の博物館に所蔵されるタイプシリーズやシェンク氏の報文を見ても解るようにタイプシリーズには♂も含まれる。四川省の個体等については図示が無く不明瞭、別の近似種の事かもしれない

 上記の理由に加えてN. curvidensの原記載以前に近似する同属の既知種は確認されない事から、少なくとも私はN. curvidensについて有効名と考える。ただ詳細な分布が分からないから再調査は必要とも考える。

 N. curvidensについても"N. intermedius"についても貴州省からタイプ個体群以外や新しい標本資料を見た事が無い。1991年にボーマンス氏などは寧ろタイのドイインタノンから"N. intermedius"を記録してすらいるが、タイからも其の形態のマルバネクワガタが新たに得られたなんて話を聞いた事が無い(誤同定かもしれないが)。

 小型種のマルバネクワガタ属は何故か再現性の低いデータラベルが多く、私の見立てでは20世紀中盤の古い個体群のみならず、1980年代から1990年代のデータ、2000年代以降のヨーロッパからのルートで齎される個体群データには特に注意が必要である。上記で今回注目した2分類群にしても、本当に貴州省に分布があるのか分からない。

https://www.zin.ru/animalia/coleoptera/pdf/bomans_1991_thailand.pdf

 また此れらの自然界での再調査がとりわけ難しいのは、基準産地が"貴州省"と曖昧な事しか分からず、一致する新しい資料群も見つかっていない事にもある。貴州省は広い。

 ベトナム北部には"N. intermedius"に模様の形が少々似る"N. bisignatus"がバオラク北西部から記載され、原産地研究者が西側に隣接するハザン省からも見つけている。


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(「Houlbert, C. 1914. Quelque Neolucanus nouveaux de la Faune Malaise et Indo-Chinoise. Insecta, revue illustree d’Entomologie, Rennes 4:252-260.」より引用抜粋。これも模様部分の形がやや不自然。当ブログの過去記事でN. oberthueri 図について書いたように、原図だと見えづらいからと図示を見やすくするために後から(元写真に)絵具を塗られているように見える)

f:id:iVene:20221029203649j:image(「Nguyen T.Q., Schenk K.D., Nguyen Q.V. 2015. "Contribution to the knowledge of the Lucanidae - fauna of Vietnam", Beetles World (11), pp. 12 - 20.」より引用抜粋。模様は左右でシンメトリー)

f:id:iVene:20221029210108j:imageベトナム・ハザン産の"N. bisignatus"に近似した個体。Neolucanus sinicus oberthueri Leuthner,1885とは別種と考えるが、手元には原産国の研究者から入手した1♂しか無いため以降の分類考察は保留としている。画像の個体等だと模様にメリハリがあるが、当時並んでいた別個体群にはボヤけたような変異や更に暗色の変異もあった)

 ベトナム北部サパ・ラオカイや広西荘族自治区の一部に産する個体群を"N. intermedius"と同定する人達もいるが、ベトナム北部の個体群と広西荘族自治区の個体群では、体格や顎先端付近に備わるタテヅノの発達に差異がある。ベトナム北部産のシニクス系マルバネクワガタ個体群は考察が難しい。

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 さて、話を戻し、N. curvidensと今回のベトナム産不明種個体について考える。似ているが同じではなさそうな集団が中国側のベトナムとの国境近くにいるのである。

 雲南省の箇旧市周辺ではニセビキヌスマルバネ・グループに近縁と考えられる不明種として"ウンナンチャイロマルバネクワガタ"が見つかっている(既知種なのか未記載種なのか分かっていない)。雲南省南東のベトナムに近い場所に分布し貴州省からは離れるが、近いとも遠いとも言いづらい距離感の分布で体型のプロポーションも一致せず、此れを同じ生物種とは言い切れない。クルビデンスマルバネクワガタは頭部の比率が大きい。分類群単位で異なるようにも見える。

f:id:iVene:20221029195554j:imageウンナンチャイロマルバネもニセビキヌスマルバネのグループと考えられる。ベトナム側で分布が見られない事が興味深い)

f:id:iVene:20221029195558j:imageウンナンチャイロマルバネも色彩が鮮やか。また変異もある)

http://www.inaturalist.org/observations/110828849

ウンナンチャイロマルバネもiNaturalistで生体画像を拝める)

 N. curvidensに近似したベトナム北部のマルバネクワガタを、"もしや此れが真のN. curvidens?"と少しばかり予想をしてみたが、N. curvidensのホロタイプとは前胸側縁の棘の突出具合が少し異なっていたりして難しい(※パラタイプは似ているが)。なおサイズもN. curvidensのタイプ個体群とは違うため体長の変化に伴う体格や特徴・細部形態の変化等注意点は多い。個体群を多数採集し一致する形態の個体が全くなければ別の分類群と言えるだろうが、此の程度の差異で実物観察が可能な個体資料がn=1~3同士みたく全体的に少数では詳細な観察も分類考察にはあまり意味をなさない。今回の場合は、少なくとも貴州省での分布を確認する事も視野に入れつつ、ベトナム産について10〜20♂は必要そうである。資料不足に加え、記述上データでの産地も離れるため同定が困難である。

 しかしベトナム北部からのコレと"貴州省を基産地とするN. intermedius"に似た"N. bisignatus"らしき個体が見つかっている事から、もしかして"N. curvidens"と"N. intermedius"の基産地データは雑に書かれたデータラベルで、本当はベトナム北部だったのではないかとすら可能性を考えられる。貴州省に居るとするならばどの山塊だというのか、現状ではサッパリ予測が付かない。しかも関わる生物体は稀型だったり希少種だったりしそうで、詳しい事はすぐには分かりそうにない。

 今回のマルバネクワガタ不明種については"飛び地分布のクルビデンスマルバネ"という可能性も考えられるが、以上の結果から"現状では同定不可"とせざるを得ない。クルビデンスマルバネの新たな発見や研究の進歩を期待したい。

【References】

Lacroix, J.P. 1978. Contribution à l'études des Coléoptères Lucanides du globe. Deux genres nouveaux et onze espèces inédites (Chiasognathinae, Lucaninae, Chalcodinae, Cladognathinae, Dorcinae). Bulletin et annales de la Société royale d’Entomologie de Belgique 114:249-294.

Bomans, H.E. 1991. Inventaire provisoire des Coléoptères Lucanidae de Thailande et description de trois nouvelles espèces (74ème contribution à l’étude des Coléoptères Lucanides). Lambillionea 91(2):137-152.

Fujita, H., 2010. The lucanid beetles of the world Mushi-sha’s Iconographic series of Insect 6.472pp., 248pls. Mushi-sha, Tokyo.

Houlbert, C. 1914. Quelque Neolucanus nouveaux de la Faune Malaise et Indo-Chinoise. Insecta, revue illustree d’Entomologie, Rennes 4:252-260.

Schenk, K.D. 2014. Description of a new species of the genus Neolucanus Thomson, 1862 (Coleoptera, Lucanidae). Beetles World (10).

Nguyen T.Q., Schenk K.D., Nguyen Q.V. 2015. "Contribution to the knowledge of the Lucanidae - fauna of Vietnam", Beetles World (11), pp. 12 - 20.

Schenk, K.-D. 2016: Description of new Lucanidae from Asia and remark about Neolucanus zebra (Coleoptera, Lucanidae). Beetles World, (12).

【追記】

 模様程度など微妙な形態的差異で分類するシェンク氏の、N. curvidensを「似ているから"N. p. intermedius"のシノニム」とする認知は何が由来だったのだろうか。個体群の図を俯瞰するだけでも、シェンク氏が能動的にしないような分類で意外性がある。しかし本文でも言及した点で、コピペしてあるように鮮明さに欠ける図を参照している事、自然史における動物の生物学的分化要因を考慮せず、曖昧な古いデータを其のまま考えた事が災いしていそうではある。

 しかし生物学的に明らかに別亜種以上に異なる分類群を"蒙昧な机上論のみ"でシノニムにされると面倒な事が起きかねない。例えば新種記載される分類群学名が、"別な既知分類群のシノニムになっている分類群が復活して其れのシノニムに分類"をされたり、或いは"別な既知分類群のシノニムとされる裸名のホモニムでシノニムにされる命名規約的に誤った分類"をされる危険性もある。

異名 synonym;1つの分類学的タクソンを表示するために用いられる, 同じ階級にある複数の学名の各々

裸名 nomen nudum (複 nomina nuda); 1931年よりも前に公表されたものでは条12に,そして1930年よりも後に公表されたものでは条13に, それぞれ合致しない学名. 裸名は適格名ではないから、 同じ学名が後に同一のあるいは別の概念に対して適格となり得る; この場合の著者と日付 [条50,21] は, 適格名の設立行為に由来するべきものであって, それ以前の裸名であった時の出版物から取ってはならない.

(「国際動物命名規約第四版」より引用抜粋)

 またデータの考え方については欝屈とした気分になる事が多いが、其れについては"再現性が全て"という事に他ならない。データと再現性はセットで考える。"悪貨は良貨を駆逐する"という流れが、再現性の低いデータラベルの話題でも起こりうる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%A0%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%89%87

 生物学はデータ・サイエンス的な事に頼る考察が多いため、他者の記述について「データが誤りなのか、分類が誤りなのか」分類屋はいつも悩む。自然現象は権威的人物や団体または井戸端会議で決められる設定ではなく自然界が決定しているから、自然界での再現性を考える。

f:id:iVene:20221102202515j:image

「Takao Suzuki & Kouichi Tanida, 2002. ヨーロッパミヤマクワガタ(Lucanus cervus)の分類と地域変異. Kuwata. No. 12」より引用抜粋。私も初心者の頃は「そんな所にいるんだ!」等ぬか喜びした。今は懐疑的である

http://www.inaturalist.org/observations/35605210

(iNaturalistでも稀にあるが、大抵は上記URL内容のように突っ込まれる)

 しかし自然界での再現性は"悪貨"を逆に駆逐してくれる。この意味での"悪貨"とは"自然界での再現性を軽んじる考え方"である。自然界なくしては何も始まらない。例えば他者採集個体のデータを考える上で理想的な方法としては、原産地ルートから齎される資料が、他ルートや過去知見と合うか否か考えてデータの正確性を評価する。其れを基準として考えていくと、13世紀の神学者ヨハネス・D・スコトゥスが説明するような"レグラティエ:転売人"らしき人達のする話は評価しづらい。

https://togetter.com/li/1780423

 また本文中で、ラクロア氏のコレクションについてデータラベルの心配を書いたが、ラベルに採集者氏名が記述されている場合はサーカー氏など採集者によって信頼度の高い資料がある。ラクロア氏は転売目的で虫を集められていない。だからラクロア氏のコレクションについては、ラクロア氏に売りつけた売人を疑うべきであると注記しておく。ラクロア氏本人は、様々な論文などから人の良い純粋なクワガタ好きだったと私は考える。

https://sv.frwiki.wiki/wiki/Jean-Pierre_Lacroix_%28entomologiste%29

 "自然界ではなく人間の持ち物のデータだけを見るような、二次的〜三次的な考察に重点"が行くペティ・クラークの法則的流れ方向は、自然科学的思考に対して逆方向的であると解る。

https://qiita.com/KanNishida/items/0bb802639daa43cee279

 再現性を確保するための科学的手順を省いたような分類は、やはり自然界における再現性の無いストーリーを作り出してしまう。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AC%E3%83%AA%E3%83%AC%E3%82%AA%E3%83%BB%E3%82%AC%E3%83%AA%E3%83%AC%E3%82%A4#%E8%A3%81%E5%88%A4

 ある程度は融通を効かすのも状況判断だとは考えられるが、事と場合により"致命的な曖昧さ"がバランス崩壊を齎しうる。

 生物種分類学は得られる大切な教訓が様々にある。

http://www.numeri.jp/text21.htm