浙江省からNeolucanus sinicus sinicus (Saunders,1854):シニクスマルバネクワガタ原亜種と思しきクワガタが採集される。しかしシニクスマルバネとは何なのか。採集個体群と照らし合わせる目的で、これが鮮明に解る文献がなかなか無い。
シニクスマルバネというと古参マニアの間では昔から普通種であるような印象だが、其れはベトナム産が大量に採集された時代の名残りで、実際には原亜種が中国を基準産地とされている。しかし中国の何処なのかと問われると応えるのに窮してしまう。
(浙江省天目山のシニクスマルバネクワガタ個体群)
同定を真に近づけるため、今回は其の基産地問題について可能な限り追跡してみる。
(「Schenk, K.D. 2014. Description of a new species of the genus Neolucanus Thomson, 1862 (Coleoptera, Lucanidae). Beetles World (10).」より引用抜粋)
シニクスマルバネ原亜種タイプ個体はエリトラの色が明るく全体にスリムな体型をしている。オリジナルのデータラベルには、原記載時の学名である"Odontolabris sinicus"(原記載論文では「Reiche氏の手記」と由来が併記される)と記載論文の引用、またフォーチュン氏採集の中国産という事のみ記述される。
※なお"Odontolabris"の属名使用は、今ではOdontolabis platynotus (Hope & Westwood, 1845)のシノニムであるOdontolabris emarginatus Saunders, 1854が最初であった。Genus Neolucanus Thomson, 1862が設立され、Saunders, 1854以外でのOdontolabrisの使用は、近年でもSaunders, 1854を引用される際のみ綴られうる名称。
N. s. sinicus (Saunders,1854)の原記載論文では幾つかの種名が新種記載されているが一つ一つに対して産地データは書かれず、最初の方でまとめて"tea districts of ChinaでR. Fortune氏の採集"とだけある。tea districts of Chinaと言うと中国の茶園の事。昔から江北、江南、华南、西南に分けられて有名だそうな。
https://wildchina.com/2021/11/the-four-tea-regions-of-china/
さて、フォーチュン氏が採集した場所は何処なのか、この記述だけでは示されるエリアが分類を考えるには広過ぎる。
しかし2014年の報文中にてシェンク氏は「フォーチュン氏は上海エリアで採集した」と断定的である。フォーチュン氏は19世紀半ばの人物だから流石に本人から聞く事はできない。何処かに記述があったのだろうか。
1913年にBoileau氏は、Neolucanus nitidusのタイプ個体群の一つに"Shangaï, Mr. Fortune "との記述があったと書いた。此のN. nitidusとは、"Odontolabris sinicus"の原記載論文にて、前貢で同時に記載された"Odontolabris nitidus"、つまり今はNeolucanus nitidus nitidus (Saunders,1854):ニティドゥスマルバネクワガタ原亜種とされる分類群の事。つまりN.nitidus nitidusのタイプとなる個体を受け取った英国側の担当者が"フォーチュン氏が上海から送ってきたものと理解して1個体に書いた"と読解出来る。※ただし1913年の同文献中にてBoileau氏は、フォーチュン氏が報告した3♂のシニクスマルバネのタイプ個体群について説明し「オックスフォードの♀はタイプではない。実物はBritish museumにあると思うが以来見ていない」と記述した。現在はTypeとしてオックスフォードとロンドン博物館でタイプ個体を見られる(シンタイプの地位にある)。
1885年にLeuthner氏はシニクスマルバネのHabitatとして"上海"と記述した。TypeについてはParry氏の個体を参照したとある。しかしLeuthner氏は同文献中にてNeolucanus nitidusのHabitatを"China (no special locality indicated)."とした。ニティドゥスについてもParry氏のタイプ個体を参照したとある(両顎が欠損したもの)。Boileau氏による説明との齟齬が気になるが、何か見落としがあったのかもしれない。
1989年にBomans氏は、Boileau氏の1913年の記述を参考にし、"ニティドゥスマルバネ"について『♂のタイプは「上海」とラベル付けされているが、この産地は間違いである。発見者であるフォーチュン氏が其れを英国に出荷した場所に違いない。』と記述している。
Le type mâle est étiqueté «Shanghai» toutefois cette provenance est très certainement erronée. Il doit s'agir très certainement de l'endroit d'où son découvreur, Mr. FORTUNE, l'a expédié en Grande-Bretagne.
(「Bomans, H.E. 1989. Inventaire d'une collection de Lucanides récoltés en Chine continentale, avec descriptions d'espèces nouvelles (1). Nouvelle Revue d’Entomologie (Nouvelle Série) 6(1):3-23.」より引用)
文献上での記述内容をまとめるとシニクスマルバネを始めフォーチュン氏が採集した個体群をタイプとした諸学名の"詳しい基準産地は分からない"という結論であり、2014年のシェンク氏による基産地の記述を鵜呑みしてはいけないという教訓がある。
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さて、これでひと段落。漸く次の話題に進める。実際に関連しそうな標本資料やiNaturalist等のデータを参考にすると、どう考えられるのか。中国内の大体のデータからNeolucanus属の小型種としては比較的低地に分布する種という印象がある。
シニクスマルバネクワガタ原亜種のタイプ個体群について、私は浙江省(〜福建省北部)で採集されたと予想している。理由はタイプ個体の色彩と、フォーチュン氏が巡ったとされる茶園やメインの採集ポイントが、"上海"から其れ程離れてなかった可能性を予想した事が一つ。移動手段があまり無い時代で、徒歩や馬だと浙江省の生息地はやや遠そうである。しかし上海は海抜4m〜でシニクスマルバネが居そうな山が無い、或いはあった形跡が無い(上海に分布するのは専らヒラタクワガタやオオクワガタの仲間)。私の手元に浙江省天目山の標高1000m辺りで採集された個体群がシニクスマルバネ原亜種のタイプに殆ど一致する形態をしている事も理由の一つ。
(当記事冒頭にも示した浙江省天目山の個体群。此の辺りの個体群については普遍的に居る種なのか珍しい種なのかあまり感覚が掴めない。普通種というには少ない印象で、実際手元には個体数がない)
フォーチュン氏が上海から浙江省など付近周辺を探ったと考えられるのは、Saunders,1854の原記載で新種記載されたクワガタのタイプ個体群の殆どがニティドゥスマルバネ等の浙江省〜福建省北部に分布する種群に酷似するからという事も一つ理由として有る(実際にグラキリスノコギリクワガタ等が現在も分布を確認されている)。
https://www.biodiversitylibrary.org/page/30707535#page/75/mode/1up
またiNaturalistで浙江省付近のシニクスマルバネクワガタを調べると、酷似する個体群が散見される(黒化した個体も見られる)。こういった観察結果は意義深い。
http://www.inaturalist.org/observations/74489470
http://www.inaturalist.org/observations/126140888
http://www.inaturalist.org/observations/120140531
(天目山周辺の個体は色の明るい個体が多い)
http://www.inaturalist.org/observations/122335761
http://www.inaturalist.org/observations/132263186
http://www.inaturalist.org/observations/130700044
http://www.inaturalist.org/observations/120262173
http://www.inaturalist.org/observations/112449706
http://www.inaturalist.org/observations/84657444
http://www.inaturalist.org/observations/106365253
http://www.inaturalist.org/observations/120181798
(福建省北部産)
浙江省〜福建省では明色から暗色までの変異が幅広く、暗色傾向の個体でも明色の紋が薄ら出る場合がある。一方、江西省産〜湖南省〜広西荘族自治区北東部に行くに連れて明るくても赤紫のような暗色傾向になるデータがある。分類屋の友人に浙江省や湖南省の個体群を見せてもらうと色々な型が存在していた。現状の検数が少ないが、地域変異なのかもしれない。しかし浙江省北部の個体群は特に明色化しやすい傾向がある。
ここでシニクスマルバネ原亜種に密接する学名は以下がある。原亜種のタイプ個体と比べて生物学的に分類が難しい分類群学名を原記載時の分類で一つ一つ考えていく。
"Neolucanus championi Parry,1864"については不明瞭な事が多い。チャンピオン氏が香港から出荷した個体群をメインに考えているようだが、これも基産地はあくまでも広大な"中国"としか分からない。
(「Leuthner, F. 1885. A monograph of the Odontolabini, a subdivision of the coleopterous family Lucanidae. Transactions of the Zoological Society of London 11(1):385-491.」より引用図。"N. championiの大型個体type"スケッチ)
以下のURLでも説明されるようにType図は大きめのシニクス系マルバネクワガタに見える。
https://fanblogs.jp/anotherstagbeetlesofworld/archive/548/0
(※ただし14ラインは35〜36mmの模様)
https://www.convertworld.com/ja/length/line.html
広東省のシニクスマルバネについて私はしっかり観察出来ていないが、此のタイプ図に似た形態の個体群は湖南省〜広西荘族自治区北東部産にも見られる。
(湖南省南部の個体群。顕微鏡で覗くと頭部〜前胸背の光沢が微妙に強い傾向、また上翅は暗赤紫色傾向)
※ちなみに2014年の報文でシェンク氏は以下のように1984年採集の個体を"シンタイプ"として図示されるが、シンタイプと書いてあるラベルも無く、原記載時点で使用された個体でも無い新しい個体であるため、此の個体について"シンタイプ"という表記をするのは命名規約的に誤りと考えられる。
(「Schenk, K.D. 2014. Description of a new species of the genus Neolucanus Thomson, 1862 (Coleoptera, Lucanidae). Beetles World (10).」より引用抜粋)
http://www.inaturalist.org/observations/81706423
http://www.inaturalist.org/observations/80078830
香港に産する小型個体群については別種説があって久しい。
"Neolucanus opacus Boileau,1899"については、江西省北部の九江を基産地とされる。
(「Schenk, K.D. 2014. Description of a new species of the genus Neolucanus Thomson, 1862 (Coleoptera, Lucanidae). Beetles World (10).」より引用抜粋。タイプは黒色傾向)
http://www.inaturalist.org/observations/51757618
(湖北省南東部だが付近の個体)
"Neolucanus pseudopacus Houlbert, 1914"については貴州省を基産地とされる。
(「Houlbert, C. 1914. Quelque Neolucanus nouveaux de la Faune Malaise et Indo-Chinoise. Insecta, revue illustree d’Entomologie, Rennes 4:252-260.」より引用抜粋)
ベトナム産について此の学名を充てる文献が幾つかある。種として合っている可能性もありうるが現状では判然とせず、正確ではないかもしれない。
(ベトナム北部各地のシニクス系マルバネ個体群。図示以外にも手元に沢山在るが、詳細な分類については難解であるため此処では割愛)
貴州省南東部〜広西荘族自治区東部大瑶山の個体群は、外形は黒色味が強く顎は中国産に似るが、♂交尾器は陰茎部が少し大きくなる傾向でベトナム産に近しいようにも見える。
(広西荘族自治区東部大瑶山〜貴州省南東部のシニクス系マルバネ個体群。ベトナム産とは顎や体型に差異がある)
http://www.inaturalist.org/observations/29853491
(貴州省南東部雷山の生体)
"Neolucanus sinicus fuliginatus Mizunuma,1994"について、基産地が雲南省南部シーサンバンナ辺りのようだが、其のエリアの新しいシニクスマルバネクワガタ個体群を私は見た事が無い。データは正確なのだろうか。。
(「Fujita, H., 2010. The lucanid beetles of the world Mushi-sha’s Iconographic series of Insect 6.472pp., 248pls. Mushi-sha, Tokyo.」より引用抜粋)
四川省北西〜南西に連なる山塊群に黒色味の強い個体群が分布し、頭部形態など似ていて其れらが一致するのかもしれない。
http://www.inaturalist.org/observations/129998554
http://www.inaturalist.org/observations/54315942
http://www.inaturalist.org/observations/32204676
http://www.inaturalist.org/observations/31463033
四川省西部貢嘎山の個体群は、過去に中国人採集家から買った個体群が私の手元にあり、其れらの外形は頭部眼縁など"N.s.fuliginatus"に似ており、交尾器の比較ではシニクスマルバネ原亜種と一致している。
(四川省貢嘎山の個体群。此れ等が"N. s. fuliginatus"なのかN. sinicusの不明亜種なのか判然とはしていない)
ちなみに図鑑で見る米易産の明色個体群については詳細不明瞭である(データは正確なのだろうか)。
(「Mizunuma, T., & Nagai, T. 1994. The Lucanid beetles of the world. Mushi-Sha Iconographic Series of Insects. H. Fujita Ed., Tokyo 1:1-338.」より引用。"四川省米易産"。図示される個体群の色合いはシニクスマルバネ原亜種に似る)
"Neolucanus sinicus nosei Mizunuma,1994"については私は詳しく比較出来ていない。これについてはシェンク氏の言うように"N. opacus"のシノニムなのかもしれない。しかし海南島からは黒色味傾向の個体群しか知らない。
(「Mizunuma, T., & Nagai, T. 1994. The Lucanid beetles of the world. Mushi-Sha Iconographic Series of Insects. H. Fujita Ed., Tokyo 1:1-338.」より引用。N. s. noseiのホロタイプ。同じく載るパラタイプについては別種説がある)
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またインド・シッキムやミャンマーの記録については再現性があまりにも無いため、経由地のタイや中国、または日本国内等でのデータ取り違えの可能性も考慮に入る。
(「Mizunuma, T., & Nagai, T. 1994. The Lucanid beetles of the world. Mushi-Sha Iconographic Series of Insects. H. Fujita Ed., Tokyo 1:1-338.」より引用。"シッキム産")
(「Fujita, H., 2010. The lucanid beetles of the world Mushi-sha’s Iconographic series of Insect 6.472pp., 248pls. Mushi-sha, Tokyo.」より引用抜粋。"Myanmar, Muang Pai産"だそうだが、ミャンマー領内で此の地名が見当たらない。シャン州の国境付近タイ側には其れらしい地名があるから其れなのかもしれないが。。)
(ヨーロッパの業者経由で入手した"タイ・Rim Kok産"。タイ産クワガタが大量に齎されていた時代など他に原産地ルートでタイ産シニクスを見た事が無いためデータについては疑念がある。交尾器の比較ではシニクスマルバネに一致し、外形は四川省の個体群に似る)
"Neolucanus oberthueri Leuthner,1885"については、模様の特徴で判別は容易。オーベルチュール氏の1ペアのみで記載され、原記載では産地を中国の"Keuey Cheou"とされるが、現在のどの地域を示すのか不明瞭("貴州省"を示すフランス語の"Kouy-Tchéou"の誤綴りなのかもしれない)。
(「Leuthner, F. 1885. A monograph of the Odontolabini, a subdivision of the coleopterous family Lucanidae. Transactions of the Zoological Society of London 11(1):385-491.」より引用抜粋)
(「Houlbert, C. 1914. Quelque Neolucanus nouveaux de la Faune Malaise et Indo-Chinoise. Insecta, revue illustree d’Entomologie, Rennes 4:252-260.」より引用抜粋。しかし模様部分の非対称的な歪な形状、また色が白過ぎている事など一般的にN. oberthueri と同定される個体群とは印象が異なる。論文上では手を加えられた話をされていないようだが、薄ら見える線など絵具が塗られているように見える。原図の写真だと模様の映り方が不鮮明だから"修正の気分で(写真を)加工"されたのかもしれない、、)
https://www.biodiversitylibrary.org/page/12636372#page/294/mode/1up
(顎のタテヅノは原亜種に比べて控えめ。エリトラの模様はオレンジ色に近く、左右でシンメトリーになる)
多産地は貴州省中南部の南隣にある広西荘族自治区西部の百色市:Baise。A. Pinratana & J. M. Maes., 2003の文献などで"雲南省東部, 師宗県:Sse-Tsong [=Shizong County]の標高2000m"という記録もあるようだが、新しく採集されているか私は知らない。とりあえず今の中国内では其の辺り一帯にある山塊でしか此のような個体群は見つかっていない。模様の変異は一産地内で幅広い。交尾器はシニクスマルバネに一致するため模様で見分けられる亜種、Neolucanus sinicus oberthueri Leuthner,1885だろうと考える。
※台湾の"Neolucanus sinicus taiwanus Mizunuma,1994"については、N. sinicus sinicusと外見で明瞭に判別可能で海峡を挟み地理的隔離があるため此処では考察を割愛する。
※また"Neolucanus bisignatus Houlbert,1914"および"N. intermedius Houlbert,1914"については難解な話が多いため別記事に記す。
ひとまずは以上の通り。様々な産地個体群を見た上で消去法を行い、シニクスマルバネクワガタ原亜種の基産地が何処なのか調べてみたが、現状では此れ以外に詳しい事が分からない。
【References】
Saunders, W. W. 1854. Characters of undescribed Lucanidae, collected in China by R.Fortune, Esq. Transactions of the Entomological Society of London 2:45-55.
Thomson, J. 1862. Catalogue des Lucanides de la collection de M.James Thomson, suivi d'un appendix renfermant la description des coupes génériques et spécifiques nouvelles. Annales de la Société Entomologique de France (4)2:389-436.
Leuthner, F. 1885. A monograph of the Odontolabini, a subdivision of the coleopterous family Lucanidae. Transactions of the Zoological Society of London 11(1):385-491.
Boileau, H. 1899. Description sommaire de quelques Lucanides nouveaux. Bulletin de la Société entomologique de France 48:175-178.
Boileau, H. 1913. VII. Note sur Lucanides conservés dans les collections de l'Université d'Oxford et du British Museum. Transactions of the Entomological Society of London 1913: 213-272.
Houlbert, C. 1914. Quelque Neolucanus nouveaux de la Faune Malaise et Indo-Chinoise. Insecta, revue illustree d’Entomologie, Rennes 4:252-260.
Bomans, H.E. 1989. Inventaire d'une collection de Lucanides récoltés en Chine continentale, avec descriptions d'espèces nouvelles (1). Nouvelle Revue d’Entomologie (Nouvelle Série) 6(1):3-23.
Mizunuma, T., & Nagai, T. 1994. The Lucanid beetles of the world. Mushi-Sha Iconographic Series of Insects. H. Fujita Ed., Tokyo 1:1-338.
Fujita, H., 2010. The lucanid beetles of the world Mushi-sha’s Iconographic series of Insect 6.472pp., 248pls. Mushi-sha, Tokyo.
Schenk, K.D. 2014. Description of a new species of the genus Neolucanus Thomson, 1862 (Coleoptera, Lucanidae). Beetles World (10).
Amnuay Pinratana, Jean-Michael Maes., 2003. Lucanidae of Thailand. Brothers of Christian Instruction of St. Gabriel (Thailand), 248 pp.
【追記】
考え出した頃は短い考察で済むだろうとタカを括っていたが、思いのほか歴史の重みが深くある種群だった。地域変異の傾向観察等まだまだやりきれていない事が膨大にある。
また観察が不足していると分類が難しい、そういう事を思い出させてくれるグループのクワガタムシ。とりあえず"既知種〜原亜種についての事実確認"をしないと近縁別種や亜種についての理解が難しくなる。シンプルに机上論が弱い問題もある。
議論の進め方の難しいテーマは沢山あって、どれが真実か分からないという壁に何度も衝突する。図鑑に載る奇抜なデータを様々な信頼のおけるデータと比べ考える度に頭が痛くなる。しかし此処はやはり"実体験"からの考察が再現性のある真実に最も近しい。
(2015年に「恐竜の復活を5〜10年以内にやる」というニュースがあった。記事の内容では簡単に出来そうな表現がなされる。私は生物学的には非常に厳しい条件ではなかろうかとなかば心配に思いつつ、どうやるのか詳しい方法の発表を待っていたのだが以来進捗を聞かない)
しかし難しい条件下でも進む研究はある。
2022年の今年、ネアンデルタール人の研究「絶滅したヒト族のゲノムと人類の進化に関する発見」でスヴァンテ・ペーボ博士がノーベル医学生理学賞を受賞された。生物種分類学に関連のある話題で私も心が踊った。響く内容は絶滅種とされていたネアンデルタール人の(大凡の)全ゲノムを新たな方法を用いて決定され、其の結果と現生人類であるヒト種のあらゆる地域の人々のゲノムとの比較を行われ、ネアンデルタール人と共通する遺伝子を現生人類も持っていて、しかも其の残り方の相対的近似・差異から限りなく確実にネアンデルタール人とホモ・サピエンスが交配した可能性が高いという考察結果を導き出された事だった。私も専門外ながら現生人類とネアンデルタール人が"遺伝子が異なるから交配して累代出来ない"という定説について、教科書で習うマイヤーの生物学的種概念に照らしつつ常日頃疑問に考えていたが、しかし専門外分野の話だったので難しい気分でいた。そんなところで厳正に厳正な審査を経て、手放しで喜べる科学分野のノーベル賞で"今まで優勢だった定説が殆ど覆えって確定しそう"という結果は心を揺さぶってくる。こういった研究のお陰様で別分野の考察も捗る。やはり本来、科学研究は斯くあるべきなのだろう。
https://honz.jp/articles/-/41533
https://gendai.media/articles/-/71473
https://twitter.com/shirasea/status/1579085402484355072?s=46&t=gucQeq4H5W9ZZB1jEp2OAg
ネアンデルタール人(学名:Homo neanderthalensis、英: Neanderthal(s)、独: Neandertaler)は、約4万年前までユーラシアに住んでいた旧人類の絶滅種または亜種である。