【Memorandum】Hybrid beetles.

 商売の為に人工的な系統を作るのは非倫理的と評されやすい。しかし作り出すのは容易なので金銭的価値は殆ど無い。

f:id:iVene:20220706205919j:image

グラントシロカブト♂とヘラクレスオオカブト原亜種♀の交雑個体群。青白く胸角基部突起は基部寄り、また頭角先端は顕著な斧状にはなりにくい。ちなみに尾節板の毛は短め。私個人的に知る限り2例の実験があるが累代しなかった)

f:id:iVene:20220706205930j:image

ヘラクレスオオカブト原亜種♂とグラントシロカブト♀の交雑個体群。青白く胸角基部突起は基部寄り、頭角先端は顕著な斧状にはなりにくい。親のヘラクレスを亜種リッキーにすれば胸角基部突起が基部から離れるようだが。6例知るが累代しなかった。1♀で卵を200以上産卵し雑種F2が出たかと思っても無精卵)

 外見は独特だが、やはり交雑体というのは苦せずして作られたという背景が読まれやすく安っぽい印象が強い。実際に温度条件など最適化すれば驚くほど簡単に出来る。

f:id:iVene:20220706210000j:image

ヘラクレスオオカブト原名亜種♂とヒルスシロカブト♀の交雑個体群〈右〉と、ヘラクレスオオカブト亜種セプテントリオナス♂とヒルスシロカブト♀の交雑個体群〈左〉。両方とも似通う。尾節板の毛は短め)

f:id:iVene:20220928211731j:image

(「Jonathan Ting Lai, 2008. 陶酔兜鍬 増補版 For the Love of Rhinoceros and Stag Beetles.」より引用図)

 交雑実験をする上で重要なのは親に選んだ個体の同定。また"実験"をするならばCB個体は使用すべきでは無い。他人から買ったCB個体の使用などは信用ならず、再現性の低い結果を正しいものと勘違いさせやすく非科学的。理想的な実験をしたいならば実験者が自身で野外個体から産ませた子孫で実験する事が科学的。

 実験には科学と非科学の鬩ぎ合いが生じやすい。遺伝子がどの程度コンタミしたか分からない他人のCB個体を実験に使用するのは方法そのものにコンタミのリスクを入れこんでいるに等しい。

f:id:iVene:20220706093845j:image

ヒルスシロカブト♂とヘラクレスオオカブト亜種オキシデンタリス♀の交雑個体群。2005年代からの個体群。画像はF2個体群の一部。実験を3例知るが2例で累代し雑種F4まで確認がある。ちなみに尾節板の毛は長め。累代するのは特段私しか知らない情報では無い。雑種F2ではヒルスシロカブト寄りの個体も出現するが、F2だからこそ出現する型の其れは正しくメンデルの法則で潜性遺伝子の発現が働いた事を示す。F3ではF1〜F2で見られなかった形態になり、以降累代で形態は安定化していた

https://ameblo.jp/welovesoma/entry-12248553943.html

 雑種というのは親の2種の遺伝子が其々受け継がれ遺伝子組換えに近い事が起こる。系統ごとに形態を変えたならば、其れは遺伝子が野生型にはなりえない状態に組み換えられた事の証拠である。遺伝学でも減数分裂の機序から当然に知られているが、微妙な遺伝子差ならともかくも雑種の親の♂と♀のパターンが違えば当然に違う型の交雑体が出る。其れは染色体が其々18本で仕様も同じとされる2種、オオクワガタとコクワガタの交雑例でも同様。

f:id:iVene:20220706210014j:image

ヒルスシロカブト♂とヘラクレスオオカブト原名亜種♀の交雑個体群。画像の個体群は脂で黒っぽいが生体は白味がある。胸角突起が基部からやや離れ頭角先端は斧状になりやすい。色のバリエーションは様々。ちなみに尾節板の毛は長め。手元には無いが累代したという例は聞いた事がある。ヒルスシロカブトとヘラクレスオオカブトは交尾器のサイズに多少の偏りで差があるが、見分けが付かない個体もある。つまり亜種程度という結果である

 様々な結果があるが鵜呑みにされるのもよろしくない。真実を示すのは唯一、自身で原産地から実験材料を調達し自身で同じ方法の実験を試す事のみ。情報不足の多いまま目新しいビジュアルを見ただけで信じこむのは科学的姿勢とは言い難い。例として自然界での混生する2種が交雑可能だったとして、何故累代しないのか説明が付かない実験結果は"椿説を権威付けるために都合良く画像とストーリーをツギハギして作られた虚構"の可能性も考えられてしまう。

f:id:iVene:20220706211017j:image

ネプチューンオオカブト♂とヒルスシロカブト♀の交雑体。雑種F1は顕性遺伝子の型が出るため中間的とはいえ偏った形態になる)

 そもそも遺伝学など生物学的な知識も無く交雑実験をしようなどという姿勢が"反知性的"である。交雑実験をしているのは学者というより殆ど日本の商売人達というミスマッチもある。此の議題は野外採集が出来ない固有生物を含む問題もあるし、原産国の純粋な研究者でも無い人達がこんなややこしい実験に手を出す意味は薄い。"こういう物議を醸す事案にこそABS問題を絡ませるべき"という視点もある。

f:id:iVene:20220706210023j:image

スマトラ島産セアカフタマタ♀とマンディブラリスフタマタ♂の交雑実験個体。画像は2004年の個体である。今は"キルヒナーフタマタ"と俗称される。雑種の外見の安定度が高い事が分かる好例。"実験者によって"という要素で生物学的形態を違える事は先ず無いのは遺伝子機能のおかげ。別系統からの遺伝子流入はHeterosisで寧ろ生物能力を上げるが、逆に下げる機序は不明瞭な仮説以外に無く、参考例はダウン症程度。自然界での異種間交雑体の存在は、自然界で戻し交配すら起きていない事が分かる好例である。なぜ自然界で戻し交配の実例が出た事が無いのか。其の意味が全てである)

 野外個体群の対立遺伝子にも顕性と潜性があるから多少は稀型の交雑体も出てくるが、よく知られるように大抵の交雑個体群は親のパターンが同じならば大抵は同じパターンの形態で出現する。これは卵子・卵細胞と精子・精細胞から受け継がれる染色体領域が決まっているという全ての動物種が持つ重要な生殖細胞減数分裂の機序により安定している。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B8%9B%E6%95%B0%E5%88%86%E8%A3%82

 減数分裂時に起こる組換えの場所が幾らランダムでも大体は決まっているから、親個体のアレルパターンにもよるが、いくら組換えのパターンが多様であれど交雑体は"兄弟姉妹間レベルの差異"程度しか変異は現れない事が当然である。さて、遺伝子的隔離の可能性について考察すると遠縁別種ならば染色体の機能により累代をしないような機序を持つ一方で、近縁別種ならば染色体数も同じで遺伝子の機能的には累代可能であると考えられる。植物の場合だと遺伝子以外の隔離を持たないが、其れは自然界で植物が生育場から種子を飛ばす以外殆ど動かず種の進化をしてきた事により遺伝的な変化が分化した系統によって著しい故、受精細胞内での減数分裂時に"遺伝子ループ等"を作ってしまい遺伝子鎖が絡み過ぎる事によって複製不可能な遺伝子配列の染色体異常になる為累代しないと推定されている。絶えず広い環境を動き回り遺伝子の流入がある昆虫類など動物の場合は近縁種間の遺伝子的な差異が植物ほどに開いたとは考えられにくく、むしろ遺伝子情報は似通ったままで別な生殖隔離の可能性を考えられる。実際に交尾器が同形態の別亜種関係の交配ならば累代や戻し交配は簡単に成る。遺伝子的隔離もフェロモンによる隔離も考えられないならば何なのか、昆虫類だと交尾器形態以外は空漠としていて、系統により形態を違えやすい交尾器形態が堅い外骨格構造だから隔離の効果が覿面で他の動物に比べて種分化が激しかったという推定も成り立つ。交尾器の変異や特徴を観たり相互補完の性質の変化喪失の有無を考えるとナルホドとなる。減数分裂時にキネトコアが配置されるセントロメア部位で染色体が分割される。セントロメアは非コード領域で染色体の決まった位置に在るから親から受け継がれる遺伝子領域の量がランダムにはなりにくくなっている。此の文意を理解するには、知見に乏しく且つ染色体数も多くて考察が煩雑になりやすいクワガタやカブトムシからの理解が難しいだろうので、よく知りたいならば世界的に研究され膨大に知見が残されているキイロショウジョウバエなどのモデル生物で理解した方が後学の為には良い。減数分裂が安定した機能であるおかげで固有種が累代出来ている。組換えが起こる場所も"組換え酵素"の集まる部位が大体決まっていて生物形態にとって重要な領域は残されるよう壊れにくくなっている。高頻度にランダムな減数分裂など生物体を不安定にさせるだけであるから決定的な形質に対して安定は必須なのである。"なぜそんな微視的な事を見てきたかのように言えるのか"というと其れは状況証拠の揃い方が根拠としてある。これらの定説に異論があるならば全く別のアプローチを考えなくてはならないが、恐らく一般人には無理で、難しいからやろうとする研究者もいない。SNS上で非科学的且つ非倫理的な行いを正当化すべく欺瞞に満ちた"プロレスごっこ"もあろうが、本来アマチュアやアマチュアみたいな学者がやる事じゃない。最早追跡不可能なくらいに何重にも亜種間交雑され作られた系統ならば様々なアレルを沢山獲得している可能性が高いから様々無数な型が出現し勘違いするような結果になる。だから"実験者によって頻繁且つ大幅に雑種の形態結果が変わる"という話があれば「遺伝学的に全くもって甚だしく不自然。何か人工的な介入が起こった可能性が有り得る」という見解を持って疑った方が良い。